死に囚われた人へ - 『ヒミズ』

どこにでもいる中学3年生の祐一(染谷将太)の夢は、成長してごく当たり前のまっとうな大人になること。一方、同い年の景子(二階堂ふみ)の夢は、自分が愛する人と支え合いながら人生を歩んでいくことだった。しかしある日、2人の人生を狂わせる大事件が起き……。


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渋谷で話題の『ヒミズ』を観ました。※以下、映画や原作に対するネタバレ含みます。





先日、新装版として発売された原作を読みましたが、第一印象が中学生版『ソナチネ』でした。『ソナチネ』は全編沖縄の美しい風景を舞台にして笑える場面も多いのですが、終始麻薬のように甘美な「死の匂い」が漂っていた作品でした。


同じように原作版『ヒミズ』も前半こそギャグも多く笑えますが、後半は主人公の住田が延々死に囚われたような行動を取ります。どちらにも主人公を全肯定するヒロインが登場するものの、最終的に主人公は自ら死を選択します。


ソナチネ』と原作版『ヒミズ』双方とも、監督/作者が主人公になりきっていて、結果的にそれぞれの死生観のようなものがダイレクトに反映されてるように感じました。『ソナチネ』で武が演じた主人公村川は「あんまり死ぬのを怖がってると死にたくなっちゃうんだよ」と言いましたが、演じた武自身も死に囚われていたのか『ソナチネ』公開の翌年に自殺のようなバイク事故を起こしています。


対する映画版『ヒミズ』ですが、これは園子温監督による初めての原作の映画化作品になります。それもあってか、監督自身が住田になりきるというアプローチではなく、あくまでも住田(及び茶沢さんら)を見守るように客観的に描いているように感じました。もっと言うと、これは監督から死に囚われた者達へのメッセージとして受け取ることもできると思います。


原作にはなく映画版のみで大きくフューチャーされているものが2つあって、1つは震災、もう1つはヴィヨンの詩です。

牛乳の中にいる蝿、その白黒はよくわかる
どんな人かは着ているものでわかる
天気が良いか悪いかもわかる
林檎の木を見れば、どんな林檎だかわかる
樹脂を見れば木がわかる
皆がみな同じであれば、よくわかる
働き者か怠け者かもわかる
何だってわかる
自分のこと以外なら


調べてみると、ヴィヨンという人は相当に変わり者のようで、15世紀で最大の詩人と呼ばれているにも関わらず、一方では殺人や窃盗を繰り返し一時は死刑を宣告されていたようです(最終的には減刑になり追放刑となった)。ヴィヨンの詩の「何だってわかる 自分のこと以外なら」は同じく殺人を犯し、自分を見失っている住田と被さります。


正直言うと住田と茶沢さんを演じた2人の若者の熱演自体は素晴らしいと思うものの、この2人があまりにも騒々しい(何かと言うと叫んだり殴り合ったり)ので、原作との印象の違いもあって映画としてはあまり好きにはなれませんでした。


ただ、バイク事故(自殺)で死ななかった(死ねなかった)武がその後開き直ったかのように『みんな〜やってるか!』『キッズ・リターン』に続いて『HANA-BI』を撮って世界的な評価を得たように、死ななかった(死ねなかった)住田や、同じように死に囚われた多くの人々が、開き直って図太く生きることができるようにと願いながら観てました。賛否あると思いますがオススメ。


(その他)
・『ソナチネ』にも『ヒミズ』にも渡辺哲が出てますね。
・映画版の茶沢さんの家庭の問題に関しては投げっぱなしだったのがちょっと違和感ありました。


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