非現実的でリアルな日常 - 『ライフ・イズ・デッド』

段階を経てゾンビ化し、レベル5に達すると心臓も思考も止まりはいかいするアンデッド・ウイルス「UDV」。そんな奇病が世界にまん延し、日本の高校生・赤星逝雄(荒井敦史)も卒業間際で感染してしまう。UDVへの偏見から就職もできず、ニートとして生きる自分の境遇を嘆き、怒りを募らせる逝雄。UDVの進行を早めるのはストレスだと知った家族は、あれこれと気遣うがすべてが裏目に出て症状は悪化するばかり。そんな中、逝雄を癒やす唯一の存在が担当のナースだった。


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古泉智浩さん原作の『ライフ・イズ・デッド』を六本木で観ました。原作マンガも映画化に伴い再発されたので、そちらで予習済み。


本作はゾンビが登場するゾンビ映画には違いないのですが、主人公がゾンビにならないように逃げたり戦ったりするというお決まりな内容ではなく、最初からゾンビ(の初期症状)であるのがポイントです。「アンデッド・ウィルス(UDV)」は「HIVウィルス」と同じようなイメージで、感染してもすぐには発症せず、段階的に進行するという設定なので、本作はゾンビ映画というよりも、徐々にゾンビ化する病に冒された青年逝雄とその家族を中心にした「難病映画」と捉えた方が正確です。


エイズ患者がそうであるように、UDV患者とその家族も回りから差別を受けます。「ゾンビ出て行け!」と石を投げつけられたり、家族にUDV患者がいるというだけでスーパーのバイトをクビになったりします(ここは原作とちょっと異なる)。こういうのっぴきならないシリアスな状態でも、原作マンガでは古泉さんののほほんとした画の雰囲気と中和することで笑いが生まれるのですが、実写の場合はそれと同じ効果を得ることは難しかったようです。逆に言えば、原作の持っていたシリアスな部分が原作以上に引き出されていて、それが映画版ならではの魅力になっていました。


原作マンガのあとがきで古泉さんは本作を描くことになったきっかけが父親の闘病生活と死だったと書かれています。それまで元気だった父親が癌になり徐々に生きる気力を無くしていく様を、家族として見守ることしかできなかったこと、看病だけではなく生活のために働く必要があったこと等が本作の原点となっているようです。


家族に重病人がいるだけでも大変なのに、云われも無い差別を受けたり、いざとなったら家族を殺さなければならないという非現実的な極限状態にも関わらず、妹はトンチンカンなことを言いつつアイスを買ってきてくれたり、親友はエロDVD持ってきたりと、拍子抜けするくらいあっけらかんとした日常は日常として過ぎていきます。


そこではお決まりの救世主も現れず、奇跡など起こりません。政府の対応は首をかしげるようなものばかりで、大臣は不適切な発言で辞職します。よく「脱力系」という言い方をされる本作ですが、実際には非常にリアルな物語だと感じました(福島の放射能による風評被害も強く連想させられました)。


冒頭で、本作はゾンビ映画というより難病映画と書きましたが、個人的にはゾンビ映画の最大の見所は、特殊メーキャップでも肉体破損でもなく、「愛する物がゾンビになったらどうする?」なので、そういう意味ではゾンビ映画としてもよくできていたと思います。ヒロインであるヒガリノちゃんの「残念なキュートさ」ももちろん魅力の1つです。


東京での上映は終わってしまいましたが、地方は(多分)これからだと思いますので、興味を持たれた方はぜひ。オススメです。


(その他)
・なんかマジメっぽいことばっかり書きましたけど、妹ちゃんの「ドント・ネバー・ギブアップ!」と、お父さんの『タクシー・ドライバー』ごっこ等笑えるシーンも多いので安心して。
・まったく空気を読まない親友の面井が古泉さんそっくりですごく笑った。演じた川村さんのアー写は全然違う顔なんでおかしい。
(左から)古泉さん、面井、川村さん


(参考)
特別編16『ライフイズデッド解説』: 三平映画館

コミックナタリー - Power Push 映画「ライフ・イズ・デッド」(古泉さんと花沢健吾さんの意外過ぎる関係にびっくり!)


ライフ・イズ・デッド (アクションコミックス)

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