『ムード・インディゴ〜うたかたの日々〜』
『ムード・インディゴ〜うたかたの日々〜』の通常版とディレクターズカット版を1回ずつ鑑賞しました(一ヶ月以上前ですが)。ボリス・ヴィアンの原作は随分昔に読んだっきりだったので、今回は3年前に発売された新訳版を改めて読み直した上での鑑賞でしたが、Bヴィアンのシュールでポップな作風と、ミシェル・ゴンドリーの無邪気な大胆な描写は相性が良くとても楽しめました。「カクテルピアノ」とか、「雲の乗り物」とか、「人力Google検索(?)」とかもう最高!
原作の文学的な評価はあまり知らないんですが、私の中ではレイモン・クノーの『地下鉄のザジ』にも通じるシュールなナンセンス・コメディと認識してます。こちらもルイ・マルによる大胆でキュートな映像化もあって、この二作品はなんだか似てるなーと感じました。ちなみにレイモン・クノーは『うたかたの日々』を「最も胸の痛む悲痛な現代的なラブストーリー」と評したそうです。
ところで原作者Bヴィアンはかなり変わった人だったようでおかしなエピソードに事欠かない(作家でありながらトランペット奏者だったり歌まで歌って、若きセルジュ・ゲンズブールに多大な影響を与え等々)のですが、特にキテレツなのがその「死に方」。別名義で書いた小説『墓に唾をかけろ』の映画の試写会場において、映画が始まって数分後に映画を痛烈に批判しそのまま心臓発作で亡くなったのでした。享年39歳。彼はこの映画化がとてもとても気に入らなかったようです。このエピソードについては、川勝正幸さんの「ポップ中毒者の手記(約10年分)」に詳しいのでこちらもオススメ(フランスに行ってBヴィアンの奥さんにインタビューしている)。
もしBヴィアンが生きていたとして、この映画を観たらどう思ったのかな?と想像しながら観てました。多分色々文句は言ったと思いますが(できることなら自分で作りたかったんだろうし)、怒り過ぎて死んだりまではなかったのでは?
映画の話に戻ると、クロエ役のオドレイ・トトゥが超かわいくて最高でした。スケート場でのプロポーズとかおっさんキュンキュン来たよ。その分後半の悲劇的な展開には(知ってはいるけど)落ち込みましたね。人生とは理不尽なり。
音楽も当然デューク・エリントンの「クロエ」がフューチャーされてるし、オープニングの「A列車で行こう」からワクワクが止まらない。ちなみにちょっとだけ「デューク・エリントン役」で登場するのは、キッド・クレオールことオーガスト・ダーネル。彼は『僕らのミライへ逆回転』ではライバルビデオショップの店長役で出てました。予告編でも流れていたCascadeurの「Ghost Surfer」は今聴くだけでも(映画を思い出して)泣けて来ます。
正直、原作を未読の人が観て楽しめるのかは?です。個人的には66年前に書かれたこの不思議な物語が、今でも古さを感じさせずフレッシュだった事が嬉しかったです。本国フランス以外で日本だけはディレクターズカット版が限定上映された事も嬉しい(ディレクターズカット版の方がシックの最期等丁寧に描かれています)。オススメ。
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