愛し愛され生きるのさ - 『おまえうまそうだな』

草食系恐竜のお母さんに育てられた肉食系恐竜のハートは、成長して巨大化したことで、皆に怖がられるようになってしまう。ある日、ハートは卵から生まれた ばかりの小さな草食系恐竜と出会う。ハートが「うまそうだな」と話しかけたことがきっかけで、ハートとウマソウの間には父と子のような愛情が芽生える。


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娘が保育園児の頃は毎晩絵本を読み聞かせていた。その中で読んでいる最中に自分の方が泣いてしまって最後まで読めなかった本、それが『おまえうまそうだな』だった。


そんな大好きな絵本が映画になると聞き、期待よりも不安が大きかった。ほとんどの絵本がそうだけど、映画にするには尺が足りないので余計な要素が加わり、結果まったく別物になってしまうことが多いから。


さらに、予告編で見た絵がざっくり言うとヌルかった。原作の版画のような趣きある絵ではなく、割とテキトーなポケモンっぽい雰囲気になっていた。しかも声優にこども店長ときた。『かいじゅうたちのいるところ』では主役マックスとキャラが違い過ぎたこともあり、あまりいい印象はなかった。


珍しく娘の方から行きたいというので、そんなに期待せずに観に行ったら...、


最初から最後まで涙腺決壊しっぱなし!劇場の子供達もマジ泣き!もう泣き過ぎて頭痛くなったよ!泣き殺す気か!


原作絵本『おまえうまそうだな』は肉食のティラノサウルスがひょんなことから草食恐竜の赤ちゃんを育てる話だ。今回の映画版はその前日譚から描かれるが、こちらにも実は原作があって、同じ作者の「ティラノサウルスシリーズ」の『あなたをずっとずっとあいしてます』がそれ。こちらは逆に草食恐竜のお母さんが拾った卵から孵った肉食恐竜の赤ちゃんを我が子として育てる話。


絵本ではこの二作は別の話なのだが、映画では繋がった話として描かれる。つまり疑似親子三代の物語なのだ。その結果、絵本版『おまえうまそうだな』と比べても「主人公ハートはなぜ本来食料であるはずの草食恐竜を育てたのか?」という疑問に説得力を持たせることに成功している。つまり原作を超えているのだ。


そして、映画版では絵本版『おまえうまそうだな』のラストからさらに話は続いていく。二冊の原作をミックスし、さらにクライマックスシーンを加える構成が非常に巧みで感心した。


肉食でありながら草食として育てられたハートはある日真実を知りアイデンティティが完全に崩壊してしまう。愛する母の元を去り肉食の仲間にも馴染めずやさぐれていく彼が、運命の巡り合わせで母と同じように本来ならば敵となる子供を育てることで、本来の自分を取り戻そうとする。しかし世界はそう簡単にはそれを受け入れてはくれない。


そんな彼を支えているのは愛する母親の記憶だ。コミュニティから追放されても自分を育ててくれた母がいたから今の自分がいる。彼はたとえ誰に認められなくても自分の道を進む事ができるのはその為だ。


キレイゴトかもしれないが、子供は親の愛情がなければ生きていけないし、親もまた子供がいるからこそ生きていけるのだと信じてる(信じたい)。


普遍的な親子の愛情物語なので、ヘタに3DCGとかにしなくて逆に良かった(「ヌルい絵」って思ってすまんかった)。世界中の親子に最高級にオススメ。


(その他)
・草食=かわいそう、肉食=悪いという単純な設定にすることはなく、「肉食は肉を食わないと生きていけない」という現実を逃げることなくキチンと描いているのも非常に好感が持てました。前半かわいかったハートが肉に飢え補食するシーンはかなりグロくて怖い。

・危惧していたこども店長の吹き替えはそんなに悪くなかった。まーそもそも主役じゃないからね(ハートを父親と思うウマソウ役)。

・ハートを育てるお母さん恐竜役の原田知世による吹き替えが超良かった!知世ちゃん最高!好き!結婚して!

・原作には出て来ない「子守唄」が非常に効果的に使われていたのも感心。

・超オススメではあるけれど、多分子連れでもない限り観に行きづらい映画だなーとは思う。思うんだけど、だまされたと思って観て欲しい。

・どうでもいいんだけど、英訳タイトルが『YOU ARE UMASOU』ってのはなんかおかしい。

・『未来少年コナン』のジムニーの話はNGワードだから。


おまえうまそうだな (絵本の時間)

おまえうまそうだな (絵本の時間)

あなたをずっとずっとあいしてる (絵本の時間)

あなたをずっとずっとあいしてる (絵本の時間)