スパイク・ジョーンズの私小説映画?-『かいじゅうたちのいるところ』

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いたずら好きなマックス(マックス・レコーズ)はいつものようにママ(キャサリン・キーナー)とケンカして、外に飛び出してしまう。ふと気付くとボートに乗っていたマックスは、海を渡り、ある島にたどり着いていた。島に住んでいる怪獣たちはマックスを見つけ、王様に仕立て上げるが……。


『かいじゅうたちのいることろ』を観ました。観る前は結構不安だったんですが想像以上に良かった!


観る前はかいじゅうの造形の方にばかり目がいってたけど、主役のマックス君(本名も役名もマックス)がとても良かった!あまり説明らしい説明がない映画だけど、年の離れた姉には相手にされず、母は仕事と新しい恋人に忙しく、マックスを「王様」と呼んだ父はどうも離婚して今はいないらしい、という状況の中で自分の居場所が見つけられず孤独と不安と苛立ちを抱えている人物像を見事に演じていました。何度彼を抱きしめたくなったことか!


そんなマックスを見ながら自身の子ども時代を思い出しつつ、同時に親として母親目線でも見てしまっていたので、島に行くまでの前半部分で既に涙ぼろぼろ。どちらに対しても「分かるよ、分かるよ(泣)」って感じで観てました。


そしてようやく「かいじゅう」が登場しますが、原作絵本と違ってかいじゅうそれぞれに名前と個性があるというのが面白かった。リーダー格にあたるキャロルはマックスととても似ていて、悪気はないんだけどついつい我を忘れて暴れてしまい仲間に迷惑をかける存在。そんなキャロルの気持ちを人一倍理解しながら彼の期待に答える事ができないマックスが同時に自分自身を見つめ直すという映画独自の展開に感心しました。


前回のエントリで、スパイク・ジョーンズ(以下SJ)は原作者センダックに「君の個人的な作品として撮るべきだ」と言われたと書きました。パンフレットによると、SJの両親は2歳の時に離婚していてその後は母と姉と3人で暮らしていたらしい。原作ではマックスの姉は登場していないことを考えると、この設定はSJ自身の家庭環境を反映していると思われます。


そう考えるとかいじゅうたちそれぞれにもSJ自身に関わり合いがある人が反映されているのではないか?


うがった見方をすれば、キャロルの恋人もしくは姉のような存在であるKWはSJの元妻のソフィア・コッポラのことかもしれない。夫としての責任より自身のやりたい事を優先するSJ(勝手な推測です)と、そんな彼を嫌いにはなれないながらも一緒に過ごせずに別れてしまったソフィア(推測ですよ)。


さらにKWの友人(?)らしいボブとテリーという謎キャラ。KWや他の人とは話が通じるのにキャロルやマックスには彼らが何を言ってるのか分からないという、原作には登場しない彼らだけど「SJと話が合わないソフィアの友人」なんかがいたのかもしれない。


話はさらに脱線するけど、そんなソフィアの映画『ロスト・イン・トランスレーション』にはスカーレット・ヨハンソン演じる妻を放ったらかしにして日本で仕事をするカメラマンの夫が登場するが、これがあからさまにSJそっくりだったりする(『JACKASS』撮影の為に日本に同行したソフィアがSJに放ったらかしにされた話が元ネタ、と言われている)。


コッポラ家というセレブの仲間入りをして「いいことばかり」になるはずだったが、元来子どもっぽいSJにはそういうそういう環境になじむことができなかった(のかもしれない)。


推測の話ばかりしてもしょうがないのでそれ以外のことについて。


安易なCGなんかにせず着ぐるみになったかいじゅうたちの存在感はやっぱり素晴らしかった。この着ぐるみを制作したのは『セサミ・ストリート』でおなじみのジム・ヘンソン・カンパニー。マックスとかいじゅうたちが森の中を走り回って一緒に夕日(朝日?)を眺めるシーンを観ながら「いつまでもこの世界が続けばいいのに」と思ってました。


数ヶ月前からヘビロテだったカレンO姐さんのサントラも本作にぴったりで、「かいじゅう踊りを始めよう!」のシーンとか最高でした。当日知ったけどちょうどこの日YEAH YEAH YEAHSとして来日してたんですね。観たかったなぁ。


「家に帰ろう」と思ってからはそんなにドラマチックな展開にもならないので原作知らない人には物足りないかもしれないけど、元々こういう話なんですよねー。ラストも会話らしい会話はほとんどないんだけど逆にそれが良かったです(「お母さん、ごめんね」とか言われると絶対興ざめしてた)。


今回は字幕版で鑑賞しましたが、明日娘と一緒に吹き替え版を観に行く予定。子ども店長の声優はどうなのか?かなり怖いシーンもあるけど恐がりの娘は耐えられるのか?ずっと更新できていない「映画絵日記」は描けるのか?乞うご期待。


(その他)
・パンフレットがすごくいいです。原作の翻訳もしてる神宮輝夫氏のセンダック解説、滝本誠氏のSJ論、詳細なプロダクション・ノート、大場正明氏のSJの過去作品と本作の関係、絵本作家五味太郎氏の原作と映画の違い解説、中野裕之氏の評論、長谷川町蔵氏のサントラ全曲解説等。全部読み応えあり。

・入場者には紙製の王冠が配られたので子どもはみんなそれをかぶって観てました。私はかぶってませんが。

・映画とは関係ありませんが、映画館で自分の隣に男性が座って(この列は他に誰もいない)、その人に「これどうぞ」とチョコをもらうという不思議な環境で鑑賞したのでそっちもドキドキしました。


ロスト・イン・トランスレーション [DVD]

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