シンデレラ・コンプレックスに対するディズニーからの返答-『プリンセスと魔法のキス』

いつの日が自分の手で夢を実現させたいと願う女性、ティアナ。ある日、ティアナの前に、言葉を話す一匹のカエルが現れる。かつて王子だったころ、のろいによって姿を変えられてしまったと語るカエル。そして、魔法を解くためにキスしてほしいとティアナに告げるのだが……。


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109シネマズMM横浜に『プリンセスと魔法のキス』を観に行きました。


今作は、「ピクサーではないディズニー作品」「しかもプリンセスもの」ということで、まったく期待してなくて、「プリンセスものが好きな娘にせがまれたら行こうかな」くらいに考えていました。


ところが、公開されると信頼しているブロガーの方から次々と絶賛の声が。

ボクなりな解釈はともかく、ディズニーらしい細部にまで行き届いた演出は見事としか言いようが無く、過去のプリンセスものに肩を並べる傑作が誕生したと言ってよいだろう。

2010-03-10 - ゾンビ、カンフー、ロックンロール

 ランディ・ニューマンのスコアも勿論すばらしいが、本作の成功はやはりシナリオにあるのではないか。ディズニーのプリンセスものには「ハッピーエンド」というある種の呪縛があるので、往々にしてどこかしらに綻びが見られるのだが、本作はこうした弱点を克服した稀有な作品といえる。

『プリンセスと魔法のキス』 - Devil’s Own −残骸Calling2−


冷静に考えたら、2008年の『魔法にかけられて』、2009年の『ボルト』と、非ピクサー作品であってもディズニーは傑作を生み出していたし、しかも製作総指揮がジョン・ラセターに、音楽がランディ・ニューマンなんで、これは期待していいのでは?と思い直し映画館へ。


結果、面白かった!ついでに言うと号泣した!


「プリンセスもの」と聞いて私が想像するのが「シンデレラ」であり、そこから生まれた概念の「シンデレラ・コンプレックス」を思い浮かべてしまう。

男性に高い理想を追い求め続ける、女性の潜在意識にある「依存的願望」を指摘したシンドロームの名称。童話『シンデレラ』に登場する類型的な王子様が、理想的男性像の一例として挙げられることから、こう名付けられた。

シンデレラコンプレックス - Wikipedia


何も『シンデレラ』を見た女性が皆、「自分の幸せのために努力せずに、男性パートナーに全て依存してしまう」なんて極端なことは思ってないけど、「女性の自立」に対してはやはり時代錯誤だと思うし、正直好きではない。言い過ぎかもしれないけど、ディズニーの『シンデレラ』には(公開時はともかく)「シンデレラ・コンプレックス」というネガティブな概念を生んだ責任があると思う。


本作には対照的な2人の女の子が登場する。1人は主人公である黒人のティアナ、もう1人は裕福な白人のシャーロット。シャーロットはおとぎ話のようにいつか王子様と結婚することを夢見ていて、いわば典型的なシンデレラ・コンプレックスを抱えている。対するティアナは、それとは正反対で「星に願いなんてかけない、自分の努力だけを信じる」タイプで、良く言えば努力家、悪く言えば堅物。タイプは異なるが2人は親友でもある。


↓幼いころのティアナとシャーロット


私は努力家のティアナが幸せをつかんで、夢見がちなシャーロットが不幸せになるという単純な展開を予想して、「もしかしてその程度の話なの?」と身構えたが、うれしいことにその予想ははずれた。


最終的に「星に願いをかけるだけ」でも「欲しいものを手に入れるために努力するだけ」でもダメだと映画は諭す。では何が1番大切なのか?それは映画を観て欲しいので秘密。


『シンデレラ』に対して「時代錯誤」と書いたけど、本作では非常に現代的な考えに即しているし、かつ過去の価値観を単純に否定せずに軌道修正させるようになってるのが素晴らしい。このあたりが、ただ「ディズニー的なもの」を否定しておちょくるだけでパロディの粋を超えていない『シュレック』との大きな違い(私は『シュレック』が大嫌い)。


他にもいいところは山ほどある。ニューオリンズ・ジャズを基本とした音楽の素晴らしさ。悪役ドクター・ファシリエの名ヒールっぷり、目立たない脇役としか思えなかったホタルのレイのまさかの運命(号泣必至!)。今回は日本語吹替え版を観たけど、いわゆるタレントの起用ではなかったので非常に安定していてこれも良かった(厳密には字幕版の方が良いとは思うけどね)。


↓ドクター・ファシリエ。かっちょ良過ぎ!


中でも素晴らしかったのが色使い!


もしもこの作品を「今時非CGアニメで、2Dかよ」という理由だけで観るのをためらってる人がいるとすれば、絶対に観ることをお勧めしたい。実は全体的には暗い色調が多いんだけど、ドクター・ファシリエの魔術とか、ここぞ!というシーンで出て来る色調が鮮やかでうっとりしてしまった。


↓ブゥードゥー最高!


CGがスゴい映画、3Dがスゴい映画が、必ずしも面白いとは限らない(別に『アバター』のこと言ってるわけじゃないけどね)ように、2Dだからその映画がつまらないなんてことは絶対にない。昔ながらのコマどりアニメである『コラライン』が魔法のような素晴らしい映像を見せてくれたように、本作の映像もあなたをとりこにすることを約束したい。


ということで、圧倒的にオススメ。新たなるディズニーアニメ黄金時代の幕開けに拍手。


※次回予告「7歳児に聞け-『プリンセスと魔法のキス』ってどうよ?」現在ネチネチとインタビュー中。乞うご期待。