バンパイアに憐れみを-『渇き』
伝染病の人体実験で奇跡的に助かった神父のサンヒョン(ソン・ガンホ)だったが、そのせいでバンパイアとなった運命に苦しんでいた。そんなある日、サンヒョンは友人ガンウ(シン・ハギュン)に再会し、その妻テジュ(キム・オクビィン)と強く惹(ひ)かれ合うようになる。愛欲におぼれる二人は共謀し、ガンウの殺害を企て……。
109シネマズ川崎に『渇き』を観に行きました。
去年観た『MW』がつまらなかった理由の1つに、聖職者でありながら犯罪に手を染めてしまう賀来神父の苦悩がほとんど描かれていない(もしくは悩んでるように見えない)ことがあったけど、それに対して『渇き』のソン・ガンホ演じるサンヒョン神父は悩んで悩んで悩みまくってチンコを棒でバンバン叩く。
自らの意志ではなくバンパイアになってしまったんだから開き直ってバンパイアとして生きていけばいいのに、頑固なまでに「いい人」なのでなるべく人を殺めないようにしつつ血を求める神父。その結果、意識のない入院患者の血を点滴のチューブ越しにちょっとずつ吸ったり、冷蔵庫にウイダーinゼリーみたいな血を入れて飲んでるのがまずはおかしい。
そんなこんなでどうにか「血に対する渇き」には対処できても、「性に対する渇き」は抑えられない中二のような神父。旧友の嫁であるテジュにムラムラきてしまい、結果その嫁に犯されるようなかたちで姦淫。神父的には「いやオレがやりたかったというよりも、あくまで不幸な女性を救おうとしただけで、これも人助けですよ、わっはっは」と割り切ることに。そして人助けの名の下に嫁のダンナを殺してしまうが、その結果さらにさらに悩みまくることに。
善人がいいことをしたり、悪人が悪いことをするのは当たり前。パク・チャヌク監督の映画では、最もいい人が最も悪いことをするという極端な設定が多いが、本作では「他人の為に自らを犠牲にしても構わないと考える神父」をバンパイアにする、という皮肉すぎる設定が見事。
そんな神父なので、(多少良い訳がましいものの)自らの欲望よりも、不幸なテジュを救おうとしていたことは事実。しかしその結果テジュは本当に救われたのか?
後半色々あってテジュもバンパイアになってしまうが、信者ではない彼女は神父のようなストイックさはなく、血を求めて暴走してしまう。前半は幸薄顔だったテジュを演じたキム・オクビンは、ここにきて何とも言えない妖艶さをかもしだしていて最高(女はやっぱ怖いな)。ここで「二人はバンパイアとして幸せに暮らしましたとさ」で終わればおとぎ話だが、パクちゃんの映画はそんなことは許さず、二人はきっちりと落とし前をつけることとなる。
先日書いた『復讐者に憐れみを』も、良かれと思ってやったことが事態をさらに複雑に悪くしてしまい、最後は皆が破滅するという話だったが、『渇き』もまったく同じ。そして相変わらず笑っていいのか怖がっていいのか分からなくなるシーン(ある者をはさんだベッドシーン等)があって、混乱してしまうことも多い。しかし終わってみれば傑作としか言いようがない。
とはいえ、期待値が高過ぎたせいか気になる点もいくつかあった。バンパイアが出て来ても基本的にはリアルなお話として捉えているので、建物をぴょんぴょん飛びまくるバンパイアの超人描写はちょっとやり過ぎだと思った。加えて神父が最後にある決心をしたきっかけの描写ももうちょっとちゃんとして欲しかった。
でもキム・オクビンが幸薄顔でエロかわいいので良しとしよう。血とエロが嫌いでない人ならオススメ。
(その他)
・観てる時は気がつかなかったけど、神父の旧友ガンウを演じたのは『復讐者に憐れみを』の聴覚障害者シン・ハギュンなのな。つまり『復讐者〜』に続いてソン・ガンホに池で殺される役なのだ。哀れ。
・バンパイアにとっては血液型とか関係ないのかな?「うわっ、これB型じゃん!」とか聞いたことないし。
・カトリックの神父って自慰行為も姦淫扱いだそうで。えーと大変ですね。
・神父がテジュを道で抱えるシーンが『汚れた血』を彷彿とさせて好き。
・前半意味ありげに出てきた笛が後半活かされなくて残念。テジュが神父の笛が好きで「最後にあなたの笛が聴きたい」とかいう展開だったら泣いてたのに。
(参考)
笑いと悲劇と暴力と-『復讐者に憐れみを』-THE KAWASAKI CHAINSAW MASSACRE
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