地味だけどスゴいんです-『誘拐犯』

ユージュアル・サスペクツ」の脚本で世界中を震撼させたクリストファー・マッカリーが初監督を務めた、大富豪夫妻の子を身ごもった代理母を巡って繰り広げられるクライム・サスペンス。しがない二人のアウトロー、ロングボーとパーカーはふとしたことから大富豪チダックの子を宿した代理母ロビンの存在を知る。さっそく二人はロビンを誘拐するが、チダックが実は裏組織と通じていたことから二人は殺し屋にも追われることに……。


数ヶ月前にTwitterでたまたま映画『誘拐犯』の話が出たとき、「オレも好き」「私も好き」とつぶやく人が数名出てきて、実は隠れファンが多いことが判明した本作。


そんな『誘拐犯』がBS FUJIの『美奈子&玲子のシネマ☆パラダイス!』でHV放送されたので、久しぶりに観直しました。


この番組って映画本編放送の前と後に、アナウンサーの中野美奈子遠藤玲子による解説が入るんだけど、これがかなりヒドかった。2人がまず映画の感想(見所?)を述べるところで、中野アナ「似たような人が多くて分からなかった」ですよ。何が悲しくて本編観る前にそんな話聞かなきゃならんのか!もうちょっとちゃんとした人が解説してくれよ!


気を取り直して映画本編の話。


冒頭、主役であるベニチオ・デル・トロライアン・フィリップのチンピラコンビが、口汚い女の顔面にパンチを入れてボコボコにするシーンから始まる(その後集団に逆にボコられる)。彼らは女であっても手加減しない立派な「悪人」なのだ。


↓悪人で名コンビ。


そんな悪人の二人は「妊婦を誘拐して身代金を奪う」という人でなしな計画を立てる。この二人は何も考えていないチンピラのように見えるけど、実際にはかなりの知性派でほとんどスキがない。二人の間で交わされるセリフは多くないが、見事なコンビネーションを見せてくれる。


そんなチンピラに誘拐されることになった臨月バリバリの妊婦役、ジュリエット・ルイスも素晴らしい。単なる不幸な被害者なのかと思わせといて、色んな秘密や思惑を抱えたキャラなのが楽しい。ラスト、銃撃戦の最中での出産シーン(!)は強烈。また実の父親であるジェフリー・ルイスも本作に出演しているのも一応ポイント。


↓絶叫するジュリエット・ルイス


対する敵の殺し屋がジョーという見た目が地味ーなおっさん。他にも地味な殺し屋が複数いるので、中野アナは彼らの区別がつかなかったらしい。ジョーは味方である若手のボディーガードからも「こんなヤツが頼りになるのか?」と思われるのだが、その時に返した一言が「この世界、年寄りを見たら“生き残った者”と思え」。バリ渋い。ラスト近く、ジョーと主人公達との壮絶な銃撃戦でも「ガラスのトラップ」というこれまた地味ながら最強の作戦を立てる要注意人物だったりする。


敵同士なのに妙に気が合うジョーとデル・トロ


こういう一筋縄ではいかないキャラ達が多数入り乱れてストーリーは進んで行く。銃撃戦等派手な部分もあるんだけど、どちらかといえばジョーの外観のように地味な画面が多い(映画史上最も遅いカー・チェイスとか)。しかし実際にはすごい駆け引きの応酬が展開しているので、めちゃくちゃ見応えあり。なんだけど、それらはほとんどセリフでの説明がないので、Yahoo!映画のレビューでは「まとまりがない」「説明不足でよく分からない」という意見が少なくないよう。


なので、見所をかんたんにまとめると、「プロの男たちによる壮絶な駆け引きと壮絶な銃撃戦」「そこに巻き込まれる妊婦の女性としての強さ」ですかね。それと「最後の最後にこれまでの話をひっくり返す衝撃の一言」も最高。地味ながら映画的な面白さにあふれているので超オススメ。