あなたの中にある「邪悪」 - 『隣の家の少女』
1958年、小さな街で暮らすデイヴィッド(ダニエル・マンチ)の隣家に、ニューヨークから姉妹が越して来る。二人は家庭の事情で叔母(ブランチ・ベイカー)の所に預けられており、デイヴィッドはすぐに姉のメグ(ブライス・オーファース)と打ち解ける。だが、次第に彼はメグが叔母とその息子たちに虐待されていると気付き始め……。
『隣の家の少女』テーマ曲(『となりのトトロ』のフレーズで歌おう)
誰かが こっそり アリの巣にミミズ埋めて
ちっさな悪意 芽生えたら 秘密の暗号
地獄へのパスポート 悲惨な冒険始まる
となりの 少女 少女 メグと スーザン
隣の家に 最近住んでる
となりの 少女 少女 メグと スーザン
子供の時に あなたに訪れた
不思議な 出会い
渋谷シアターNで土曜日のモーニング(11:15〜)の回を観ました。こういう内容の映画を午前中から観たがる人なんているの?と思っていたら、半分以上の席が埋まってました。皆おかしいよ!オレ以外は!
映画の話の前に原作に関する個人的な話から。
以前も書いたように原作は1/3くらい読んだ時点で、オレのゴーストが「それ以上読んだら引き返せないぞ」と警告したことで、生まれて初めて「怖くて先に進めなくなった」小説でした。
そのままで済ませられれば良かったのに、映画版日本公開が決まった時点で「娘を持つ父親同士で一緒に観に行きますか?」と、とみさわさん(id:pontenna)と罪山さん(id:tsumiyama)を軽い気持ちで誘ったらあっさりOKされてしまい、逃げるに逃げられなくなったのでした。誘っといてなんですが断って欲しかったです。
そんなわけで、せっかく観るんだったらやっぱり原作も読んでおいた方が良かろうと思い直し、一度は本棚に封印した原作を改めて最初から読み直すことに。しかし前回も挫折した1/3あたりでやはり胃がキリキリと痛くなったが、何とか読了。
原作のデイヴィッドは最後までメグに手を出さないものの、途中からその甘い暴力の背徳的な世界に惹かれている自分を発見してしまう。あともうちょっと背中を一押しされれば彼もこの虐待に参加していたはずだ。そのことを自覚しているからこそ、デイヴィッドは大人になっても「苦痛」から逃れることはできない。
そうとも。じつのところわたし自身が問題だったのだ。はじめからずっと、わたしはあれが、それとも似たようなことが起こるのを待っていたのだ。あれは、わたしの奥底にあったきわめて本質的ななにかが解き放たれて一気に広がり、わたしをのっとったせいで、わたし自身が荒々しい黒い風となり、あの明るい陽ざしがふりそそぐ美しい日を襲ったようなものだったのだ。
私がこの原作のキモだと感じたのはこの部分で、つまり「どんなに自称善人であってもあちら側に転がる可能性が必ずある」ということだ。私にだってあるし、これを読んでるあなたにだってある。常識的に考えれば善悪の区別など簡単につきそうだが、そもそも善悪の境界線なんて曖昧極まりない。
例えばあるスポーツ選手が小さい頃からスパルタ式特訓を受けていてその甲斐あってオリンピックで優勝したとする。そうするとその特訓は世間的には「美談」になるが、同じように特訓を受けて結果芽が出なかった数百人にとっては、その特訓は虐待とはいえないのか?ルースは確かに狂っているが、それならば過酷な特訓をする人だって狂ってるのではないのか?
残念なことに今回の映画版はそのキモが明確には描かれていなかった。デイヴィッドは最初から虐待をおかしいと思っており、ただそのタイミングをつかむことができないだけで、基本的にはずっと「いい子」のまま。ここは私にとっては多いに不満だった(もちろん映画としての尺の問題とかあるけどね)。
ただし、忌み嫌われた小説の映画化というタブーに挑戦したその心意気とか、熱演したキャストには拍手を送りたい。少なくとも「虐待はあなたの身近で置きている」「あなたはそれを止めることができる」という視点から映画を観ることは可能だし、原作を無視すればそれなりに見所はあると思う。
とはいえ、延々と虐待される少女の話には違いないので、さすがに万人にはオススメはできない。興味を持った方は各自自己責任で観るように。そして自分の中にある邪悪な部分に気がついて欲しい。
(その他)
・それにしても、子役の親たちって何考えてんのかなぁ?ちょうど公開中の『ブルーノ』のあるシーンを思い出しちゃったよ。子供を売り込むためだったらどんなことでもするの?
・原作を一度挫折した私が考えた「もう1つの結末」というのがあって、これに比べれば原作なんて「救い」に溢れてるといえる。つまりオレはケッチャム以上の鬼畜なのか?
・パンフは深町先生や真魚八重子さんが寄稿されたテキストに加え、うぐいす祥子さんのコミックも読めるのでオススメ。撮影中の和気あいあいとしたオフショット写真もあり。
(参考)
「隣の家の少女」ケッチャムと表現について - 深町秋生のベテラン日記
『隣の家の少女』映画版と原作の違いについて - 俺の邪悪なメモ
「隣の家の少女」観た、今は後悔している: わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる
- 作者: ジャックケッチャム,Jack Ketchum,金子浩
- 出版社/メーカー: 扶桑社
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