洗礼
- 作者: 楳図かずお
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2008/12/26
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永遠の聖美女とうたわれた女優・若草いずみ。だが、その素顔には醜いアザやしわが広がっていた。絶望のあまり狂乱するいずみに主治医の村上は何事かを告げる……。いずみは娘を産んだ。その後、彼女の行方は杳として知れない。時は過ぎる。ある街に母娘が睦まじく暮らしていた。醜い姿となったいずみと、美しく育った娘さくらである。失われた美と若さへの欲望にまみれたいずみの、悪魔のような計画が静かに進行していた。
UMEZZ PERFECTION版「洗礼」全三巻を読みました。「洗礼」は楳図作品の中でもかなり好きな作品です。
以下、ネタバレを含むのでたたみます。
「洗礼」の魅力の1つが「早過ぎたサイコ・サスペンス」モノであること。60年代に「サイコ」や「コレクター」という映画はあったものの、「サイコ・サスペンス」や「サイコ・ホラー」という言葉が定着したのは91年の「羊たちの沈黙」以降であることを考えると74年(!)に連載が始まったこの作品の凄さが分かるはず。「サスペリアPART2」ですら75年なのに!
70年代ホラーと比べてみると実は「エクソシスト」(こちらは73年)と似ていたりする。「エクソシスト」は少女が悪魔に取り憑かれた話ではなく、思春期の少女特有の情緒不安定な精神状態を現しているのは有名だけど、「洗礼」もまったく同じで物語の最後に「全ては主人公さくらの妄想だった」ことが判明する(さくらは小学四年生の設定)。それに対して担任の谷川先生は言う。
「さくらの心の底でお母さんの望みをかなえてあげたい気持ちと、お母さんをにくむ気持ちと、そして自分ではまだ気づかないおとなへのあこがれと、そして幸せになりたいと思う気持ちが、今度のできごとをひきおこした....」
もう1つの魅力は「ロリータ」表現。さくらは妻子のいる谷川先生を偏愛し自分だけのものにしようとする。自分が美しく魅力的であることを自覚している彼女は先生の奥さんのいない時に、先生と一緒にお風呂に入る。その夜酔って帰ってきた先生と一緒の布団で寝るシーンが続くが、これらのエロさがただ事ではない。岡崎京子は「洗礼」を「"セックスしないエッチ"のチャンピオンみたいな漫画」と評したが、とても的を得てる。
他にも「女性の美に対する執念」や、「母と娘」の微妙すぎる関係等、少年には(実際は成人であっても)ほとんど理解できない衝撃的な内容なので、女性恐怖症になりそうなくらい怖い。最初に「サイコ・サスペンス」と書いたけど、さくらが家で大量の動物の死骸を発見するシーンなどはガチで怖いホラーともいえる。
UMEZZ PERFECTIONシリーズはいわゆる「完全版」なので、過去の単行本には含まれなかった連載当時の扉絵やカラーページを可能な限り掲載しているのもうれしい。↓このあたりとかヤバ過ぎる。「ハンニバル」の原作より25年前だよ。
装丁はこれまで同様祖父江慎で今回も紙質を途中で変えたり、一部分だけ特色+Kのいびつな二色刷りだったりの校正泣かせなアグレッシブさで最高。
(追記)
今気がついたけど「紙質が違う」ページって、「現実」と「さくらの妄想」とで分けられてるんだ!すげー!!!!!
どこをとっても素晴らしい出来なので、未読の方も昔読んだことがある方にも超オススメ。