楳図かずお『マザー』を観ました

数々のヒット作、名作を放ってきた漫画家・楳図かずお片岡愛之助)のもとに、ある出版社から彼の半生を記した書籍の企画が舞い込んでくる。その担当編集者となって取材を重ねる若草さくら(舞羽美海)は、楳図の創作の原点が亡くなった母親イチエ(真行寺君枝)にあることを知る。やがて、別荘の窓に残された謎の手の跡、タクシーの隣席に存在しないはずの人影、楳図の周りに漂う紫煙、イチエの葬式の参列者の写真に写る彼女自身の姿と、調査を進める彼女と楳図の周囲で恐ろしい現象が頻発する。


楳図かずおが初めて監督した映画『マザー』を観ました。『14歳』以来の19年振りの新作という触れ込みは正しく、マンガ同様に一筋縄では行かない禍々しい魅力に溢れ、大変面白くそして怖かったです!


本作は「楳図かずお」役を外見がまったく似てない片岡愛之助が演じるというのが以前から話題になってましたが、事実上の主人公といえるのは舞羽美海が演じた「若草さくら」です。この名前を聞いてピンと来た人もいると思いますが、「若草さくら」とは楳図マンガ『洗礼』の主人公の名前であり、『洗礼』は美にとりつかれた母とその娘の愛憎劇ですが、本作では母と息子の関係が主軸となっています。


↓『洗礼』のさくらと母


出版社に勤めるさくらは楳図かずおの熱狂的なファンで、楳図かずおの自叙伝を作りたいと本人に依頼をする事から物語は始まります。さくらは楳図マンガの中でも特に『おろち』が好きという設定で、取材で訪れた楳図かずおの故郷で不安になった時、自らを鼓舞する為に天に向かって人差し指を突き出すおろちの決めポーズをするのにグッと来ました。


↓『おろち』の決めポーズ


そしてタイトルでもある楳図かずおの「母」であるイチエを演じたのが真行寺君枝なのですが、これがもうスゴかった!何年も前に死んでいるイチエがなぜか現世に甦り、生前ゆかりのあった人々の前に現れて襲い始めるのですが、その形相がまさしく楳図マンガ!ラストではついに楳図マンガでおなじみの×××の姿になって襲って来るのでおしっこチビりそうになります。


↓母イチエ、この時はまだ美人


興味深かったのが様々なホラー映画の演出を駆使している事で、いわゆるJホラー的な心霊描写があるかと思ったら、POVもあったり(怖過ぎて死ぬかと思った)、かと思ったらサイコホラー的な展開があったりと差詰めホラー映画の闇鍋状態。節操がないと言えなくもありませんが、とにかく面白いと思ったものを詰め込むという貪欲な姿勢に感服しました。


あと、以前から楳図マンガとダリオ・アルジェント作品は独特の美意識で構成されていて、辻褄より面白さを優先するみたいなトコがテイストが似ていると思っていたのですが、映画の後半の超展開はまさしくダリオ・アルジェント作品のようで興奮しました。ちょい役で出演しているしょこたんもいい味出してます。


強いて難を言えば、展開がいささか唐突に感じた箇所がいくつかありましたが、これは上映後に購入したノベライズ版を読む事で解決しました。もしかしたら撮影はしたけれど、編集で大幅にカットして説明不足になったのかもしれません(本作のランニングタイムは84分と短め)。まぁマンガでも唐突な展開は多いですけどねw。


他にも楳図マンガを読んでる人だとニヤリとするシーンが色々あって、楳図かずお自身による楳図作品を再構築した集大成となっています。もちろん楳図マンガに詳しくなくてもホラー映画好きなら間違いなく楽しめるのでオススメです。


『マザー』オフィシャルサイト


マザー (小学館文庫)

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洗礼 1 (ビッグコミックススペシャル)

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おろち 1 (ビッグコミックススペシャル 楳図パーフェクション! 4)

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