読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

くだらなくて素晴らしい飲み会トークの懺悔 - 『みんなのしらないセンダック』

スパイク・ジョーンズが、世界中で愛される作品『かいじゅうたちのいるところ』の実写映画化と同時に制作されたドキュメンタリー!絵本の生みの親である絵本作家の巨匠モーリス・センダックへインタビュー形式で、センダックについてを追っていく。


オフィシャルサイト


5/8に亡くなった『かいじゅうたちのいるところ』で有名な絵本作家モーリス・センダックのドキュメンタリー映画『みんなのしらないセンダック』を観ました。こちらは昨年末にスパイク・ジョーンズの短編『アイム・ヒア』と同時上映という形で劇場公開されていましたが、その時は見逃してしまったので今回はDVDを購入しての鑑賞です。


このドキュメンタリーは41分ととても短い長さだったので、2、3回インタビューしたものをまとめたくらいに考えていたのですが、実際には2004年から2009年までスパイクと共同監督のランス・バングスが最低でも40〜50回コネチカット州のモーリスの自宅まで尋ねて作られたのでした。同時進行で映画『かいじゅうたちのいるところ』も作られていました。



自宅のリビングでくつろぎながら話すセンダックは、一見すると偏屈なジジイといった印象で、辛辣な事を言ったと思えば、時にユーモアを交えて笑顔で話したりと様々な表情を見せます。時間軸をバラバラにした編集のせいかもしれませんが、正直言ってひどく混乱している人物のように思えました。例えば両親のことを「嫌いだ」と言ったり、とても愛してるように語ったりと複雑なパーソナリティを感じました。


映画の中で、センダックは自分がゲイである事を告白します。彼自身がゲイであることを認識したのは20歳のころ。ようやく絵本作家として注目を集め始めていた彼は、「ゲイが絵本を書くなんて許されない」と世間から非難されることを恐れ、とまどったそうです。21世紀の今ならともかく、1950年代にゲイへのカミングアウトは無謀でしかありませんでした。


その結果、彼は自分がゲイであることを世間にも両親にも告げずに仕事に没頭することになりました。両親に対して自分がゲイだと伝えなかったことを彼は「それで良かった」としながらも「後悔している」とも言います。そして2007年に50年連れ添ったパートナーが亡くなったことを機に初めて自分がゲイであることをカミングアウトしたのでした。



映画の後半はほとんど「死」の話ばかりでした。長年連れ添ったパートナーが亡くなって自分の死を意識し始めたタイミングもあったと思いますが、彼は子供の頃から「死」に取り憑かれていたようです。その1つが「リンドバーグの息子誘拐殺人事件」。


リンドバーグ愛児誘拐事件 - Wikipedia


事件当時3~4歳だったセンダックは新聞に掲載された「放置された赤ん坊の死体の写真」を見てとてつもないショックを受け(本人曰く)「イカれて」しまい、大人になってからも取り憑かれたようにこの事件の事を調べていたそうです(映画『ゾディアック』みたい)。


もう1つの出来事は、子供の頃に彼のちょっとした行為が原因で、目の前の友達が死んでしまったという話でした。幼い彼は罪悪感に駆られて家の中に閉じこもってしまったようです。この映画のセンダックは、死を前にしてカメラという牧師の前で様々な告白を懺悔として行っているようにも感じました。


こうやって書くと非常に重たい内容のようですが、アート界の大先輩に対してまったく飾らずに愛情を持ってラフに接するスパイクと、そんな彼に世代を超え共感し心を許したセンダックの2人のやり取りは、数十年来の親友同士のダラダラした飲み会トークのようでもあり、とても正直で、とてもくだらなく、とても楽しくて、とても素晴らしいものでした。スパイク以外にこれだけの話を聞きだせる人物はいなかったと思います。


スパイクが作った映画版『かいじゅうたちのいるところ』は、一時期映画会社から再撮影を命じられましたが、原作者であるセンダックが猛烈に反対したことで、最終的にスパイクの思い描いた通りの映画として完成しました。まるで戦友のような2人の絆の深さを確認したい方は『かいじゅうたち〜』と合わせて、このドキュメンタリーを観ることを深くオススメします。


と、ここまで書いたタイミングで、この映画のエグゼクティブ・プロデューサーがNathanial Hornblowerであることに気がつきました。これはセンダックと同じく今年急死したビースティー・ボーイズのMCAことアダム・ヤウクの変名です。スパイクとも繋がりが深い彼がこの映画に関わっていたことは全然知らなかったので驚きました。自分にとってもMCAとセンダックの死はスゴくショックでしたが、彼らがこういう形で素晴らしい作品を残してくれたことを嬉しく思います。


DVDパッケージもかわいいよ!


過去のセンダックに関する記事
あなたの中の子どもへ-『かいじゅうたちのいるところ』公開を前に
映画&絵本「かいじゅうたちのいるところ」について


過去のMCAに関する記事
追悼 アダム・ヤウク(ビースティ・ボーイズ)の傑作映像集


みんなのしらないセンダック [DVD]

みんなのしらないセンダック [DVD]

かいじゅうたちのいるところ [Blu-ray]

かいじゅうたちのいるところ [Blu-ray]

かいじゅうたちのいるところ

かいじゅうたちのいるところ