シュルレアリスム展〜『アンダルシアの犬』〜『神の左手悪魔の右手』
※本来なら地震のあった先週にアップするつもりだったエントリです。タイミング的にどうかとも思いましたが、せっかくなので掲載します。
娘さんを連れて国立新美術館へシュルレアリスム展を観に行きました。
ここのホームページにアクセスするとまず次の文章が表示されます。
これはアンドレ・ブルトンの『シュルレアリスム宣言』からの引用です。 シュルレアリスムについてかっちょよく語るほどの教養は持ち合わせてないのでさらっと流しますが、この「芸術表現は妥協するな」という声明は恐ろしくもありつつ、非常に魅力的です。
映画でもコミックでも私が観たいのは「想像のそのちょっと先にあるモノ」です。例えば『遊星からの物体X』。ついさっきまで 仲間だと思っていた人が、あっという間に恐ろしいエイリアンへ変貌するという衝撃的なビジュアル体験。初めて観た時は脳の中でア ドレナリンが音を立てて沸き出したような感覚を味わいました。あの感覚を味わいたくて、映画やコミックを観てるといっても過言ではないです。
そんなシュルレアリスム展ですが、展示された絵画もそれなりに面白かったのですが、映画『アンダルシアの犬』が壁一面にプロジェクターで上映されていたので、久しぶりに鑑賞しました。
『アンダルシアの犬』は言うまでもなく、ルイス・ブニュエルとサルバドール・ダリが作った実験的なショート・フィルムです(約16分)。
製作のきっかけは、二人がお互いに見た夢について話をしたことにはじまる。ブニュエルの見た夢と言うのは、細い横雲が月をよぎり、かみそりが目を切り裂くと言うもの。一方のダリの夢は手のひらに蟻が群がっているものであった。
超現実世界への招待〜ダリとブニュエル〜
改めて観ると、ある意味スプラッター映画でしたね。冒頭の眼球をかみそりで切り裂く有名なシーンは言うに及ばず。道に落ちた切り取られた腕を棒でつついたり、白目むいて血を流しながらおっぱい揉んだり。さらにロバの死体や、手に群がる蟻、『羊たちの沈黙』にも出てきたクロメンガタスズメというドクロ模様の蛾といった負のイメージが脈絡無く次々と出てくる。でもそれらに意味がないので怖くはなく、むしろ滑稽で笑えてしまう。
何より80年以上前の映画なのに、製作当時と比べてあらゆる刺激に慣れた我々現代人ですらショックを受けてしまうパワーが素晴らしかった。これぞ「容赦しない」芸術!ちなみに娘さんは「わけがわからん」と言ってました(そりゃそうだ)。
そしてたまたまこの展覧会と同じタイミングで発売されたのが、楳図かずおの超スプラッターコミック『神の左手悪魔の右手』。
例によって祖父江慎による常軌を逸した狂った装丁。
『神の〜』が連載されたのは86〜89年で、いわゆるスプラッター・ブームのまっただ中 (『死霊のはらわた』の日本公開が85年)。おそらく楳図かずお自身もそれらに触発されて本作を描いたと思われますが、この作品の残酷描写は完全に一線を越えていて凄まじいの一言につきる。
興味深いのが「眼球切り裂き」で始まる『アンダルシアの犬』に対して、『神の〜』では第1話の1ページ目から、「少女の両目の奥から錆びたハサミが飛び出す」という、これまたとんでもないシーンで始まる(前置き一切なし)。
大事なことなのでもう一度書きますが、「両目にハサミがささる」のではなく「両目の奥からハサミが飛び出す」のです。こんなこと誰が思いつく?
実際楳図かずおは「ダリが好き」なことを公言していて、『ダリの男』という短編まで描いています。もしかしたら『アンダルシアの犬』へのオマージュというか、対抗心でこの冒頭のショックシーンを描いたのかもしれない。
楳図かずおがダリに絡めて「怖い絵」について語ったインタビュー。
僕はダリが好きなんですけど、彼の絵に写実的できれいな海岸の風景画があるんです。けれども、そのなかに、海岸の波の端っこを指でつまんでめくっている描写がある。そこだけで非現実になっちゃうんです。条件として、“非現実的が入っていないと、怖いとは言わない”と、僕の中では決めて描いているんです。
この街あの人! 楳図 かずお 氏 豊島区タウン
(中略)
ダリの絵のように、波の端をつまんでめくり上げることができますか? まわりがどれだけ現実でも、この一点、できないことが混じったとき、要するにファンタジーになるわけで、恐怖ということになる。
映画もコミックも「規制」が話題になることが多い昨今ですが、『アンダルシアの犬』みたいに「芸術作品」として美術館で上映されるものもあったりしてその違いはあやふやで明確ではありません。『神の〜』の冒頭シーンとかは巨大な絵画にして、美術館で鑑賞できたら素敵だと思うんですけどね。「事実は小説より奇なり」とは言うけれど、現実に負けない容赦ない芸術作品をこれからも楽しみにしています。
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