『アイアン・スカイ』『ディクテーター』の原点 - 『チャップリンの独裁者』

18年の第一次大戦末期、トメニアのユダヤ人一兵卒チャーリーは飛行機事故で記憶を失い入院する。それから数年後のトメニアは独裁者アデノイド・ヒンケルの天下で、ユダヤ人掃討の真っ最中。そんな折、退院したチャーリーは生まれ育ったユダヤ人街で元の床屋の職に戻る。親衛隊の傍若無人ぶり、特にそれが恋人ハンナに及ぶに至り、彼は勇猛果敢かつ抱腹絶倒のレジスタンスを開始。それがどういうわけかヒンケル総統の替え玉を演じさせられることになり……。


9/28にいよいよ公開となる『アイアン・スカイ』。「ナチスが月から攻めて来る」という荒唐無稽な設定から、「おバカ映画」(イヤな言葉だ)といった印象を持たれてる人も多いと思いますが、実際にはナチスそのものよりもアメリカを筆頭にした「建前だけの民主主義」全体を辛辣に皮肉る内容になっています。


その『アイアン・スカイ』で大々的にフューチャーされてるのが『チャップリンの独裁者』。言うまでもないクラシックであり超有名な映画ではあるものの、実は未見だったのでこの機会にレンタルで観ました。


The Great Dictator - Trailer


あからさまにヒトラーをモチーフとした独裁者ヒンケルと、ユダヤ人の床屋(無名)をチャップリンが二役演じています。ラストにこの二人が入れ替わって演説を行うのがクライマックスなのですが、この場面がかなり唐突で「もうちょっと何とかならなかったのか?」と思いました。そもそも124分って長過ぎだろ!とも感じました。


ただ、この映画って1940年に公開されてるんですよね。当時はまだヒトラーも生きていてナチスドイツがフランスやオランダ等に侵攻した頃なので、劇中でヒンケルが隣国へ侵攻したことはほとんどタイムラグがない現実だったのです。この時点ではアメリカとドイツは戦争状態にはありませんでしたが、翌1941年に日本が真珠湾を攻撃したことがきっかけとなり、ドイツがアメリカに戦線布告しました。チャップリンがこのタイミングでこの映画を作ったことはスゴいと言わざるを得ません。


そして、ヒトラーが自殺したのが1945年。チャップリンヒトラーと同じ年だけでなく誕生日が4日しか違わなかったり、口ヒゲがトレードマークだったりと共通項が多いことでも知られています。他人とは思えない独裁者のことが気になって仕方がなかったのかもしれません。


そして『チャップリンの独裁者』(原題『The Great Dictator』)は、サシャ・バロン・コーエン主演の『ディクテーター 身元不明でニューヨーク』(原題『The Dictator』)とも密接な関係があります。どちらもその時代におけるリアルな独裁者像を皮肉を混めてコミカルに演じているのはもちろん、『〜独裁者』でのヒンケルのスピーチ「民主主義は下らない」「自由は下らない」「言論の自由は下らない」は、『ディクテーター』のラストの演説に繋がっています。



何の因果か日本では『アイアン・スカイ』と『ディクテーター〜』がほぼ同時期に公開され、しかも過激で過剰な発言を繰り返す独裁者じみた政治家が登場し一定の支持を得ている状況です。今こそ我々はこの3本の映画を観るべきなのかもしれません。果たして対岸の火事として笑うことができるでしょうか?


独裁者 (2枚組) [DVD]

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