あなたの中の子どもへ-『かいじゅうたちのいるところ』公開を前に
明日1/15から待望の『かいじゅうたちのいるところ』が公開される。「食べちゃいたいくらい好き」な絵本がスパイク・ジョーンズの手でどのように映像化されたのか楽しみすぎてどうにかなりそう。
そんな中前田有一氏の『かいじゅうたち〜』のレビューを読んだ。
原作も奇妙な絵柄だが、実写にするとなおさら不気味(30点)
かいじゅうたちのいるところ|映画批評なら映画ジャッジ!
『かいじゅうたちのいるところ』は、特に欧米では知らぬ者のいないモーリス・センダック作の名作絵本だが、それにしてもこれを製作費100億円クラスの実写大作にしようというアメリカ映画界の景気よさには驚かされる。いくら売れているといったって、日本ではノンタンを超大作にしようなどという企画はありえない。つくづく、恐ろしい世界である。
映画の評価はひとまずおいといて、原作を『ノンタン』に例えるのはおかしくないか?別に『ノンタン』自体は悪くないけど、比較対象として合っていないよ。
あれ?もしかして『かいじゅうたち〜』って一般的にそういう「毒のない子ども向け絵本」として認識されているのかな?マックスの吹替えが子ども店長なことからもそういう気がしてきた。それは違う、違うぞお。
そんなわけで今更ながら原作者のモーリス・センダックと原作絵本について。
センダックはNY生まれのポーランド系ユダヤ人。家族がホロコーストの犠牲になったり、ウォール街大暴落で父の経営する会社が倒産したりで、貧しく過酷で孤独な少年時代を過ごしている。彼はマックスと同じく空想好きの少年だった。
今でこそ世界中で人気のある『かいじゅうたち〜』だけど、発売当初は親や批評家たちから「教育的ではない」「しつけに悪影響を及ぼす」と苦情が殺到したという。『かいじゅうたち〜』は立派な「有害図書」だったのだ。他にも『まよなかのだいどころ』という絵本ではセンダックが描いたペニスの絵を全米の図書館員が塗りつぶすという騒ぎも起こしている。
ユダヤ人でレッテルを貼られる恐ろしさを自覚していた彼はおそらく怒り狂ったはずだ。
そんなセンダックが「絵本」について語った言葉がこちら。
子どもがどんな現実の中で生きているかを考えると、ある種の子どもの本の、真実の半分しかみようとしない姿勢は、全く恥ずべき物であると言わざるを得ません。そうした本は、争いや苦痛の影など微塵もない金ぴかの世界を広げて見ますが、そうした世界をでっち上げるのは、自分自身の子どもの真実を思い出すことのできない、あるいは思い出そうとしない人達です。そんな人達の、削除項目だらけの人生観は、本物の子ども達の人生とは、何の関係も有りません。
一般的な絵本に登場する子どもは素直で、例え悪い事をしたとしても最後には反省する模範的な「いい子」であることが多い。これは「親が望む子どもの姿」であって、本当の子どもの姿とはいえない。思い返して欲しいが、誰だって子どもの頃親や先生をはじめとした大人から理不尽な扱いを受けて暴れたくなったことがあるはずだ。そんな葛藤や怒りを「なかったこと」にする大人をセンダックは軽蔑している。
作家アリソン・リュリーはこう言っている。
こどもにとってかけがえのない文章は、必ずしもおとなが推薦するようなものとは限らない。
その言葉が示すように『かいじゅうたち〜』は大人からは嫌われても、子どもからは絶賛され現代に至る。
また、センダックはこうも言っている。
わたしは子どもだったわたしが成長して、現在のわたしになったとは信じていないのです。
彼はわたしのために、いちばんグラフィックで造形的な、そして肉体的な意味で、いまだにわたしのどこかに存在しているのです。
わたしは彼のことが非常に気になりますし、興味をもっています。
彼といつでも通じようとしているのです。わたしが最も恐れていることは、彼との接触を失うことです。
大人として感じる喜びは、同時に同じ喜びを子どもとして経験できるということで相乗的に高められるのです。
この思想は楳図かずお自身や彼の作品全般、特に『わたしは真悟』の世界に近い。大人という別の存在になることを極端に恐れ、子どものうちに子どもを作ろうと願う悟とまりんの行動は親を含めた大人の目から奇異にしか映らない。『かいじゅうたち〜』のマックスの行動もそうだ。
話を『かいじゅうたち〜』に戻す。
今回スパイク・ジョーンズを監督に指名したのはセンダック自身らしい。
2人は本作の製作前から知り合いで、センダックはジョーンズ監督に「僕はこの絵本を個人的な作品として書いたんだから、君もこの映画を個人的な作品として撮るべきだ」とアドバイスした。ジョーンズ監督は、5歳の頃に母親が読んでくれたこの絵本を好きだったことを覚えていて、この絵本の自分バージョンを作る、というアイデアに魅せられた。
かいじゅうたちのいるところ インタビュー: 奇才スパイク・ジョーンズが映画に込めた思いとこだわり - 映画.com
こうして本作はスパイク・ジョーンズの「個人的な作品」とし完成した(と思う。何しろまだ観てないんで)。観る前から言っちゃうけど、おそらく「誰もが楽しめる娯楽映画」ではないと思う(だってスパイク・ジョーンズだよ!)。むしろ原作に思い入れがある人ほど好きになれないのかもしれない。
それでも私は予告編を初めて見た時のあの衝撃を信じたい。
かいじゅうたちが歩いている。
動いている。
しゃべっている。
手を伸ばせば触れることができるように存在し、そして生きている。
私自身も忘れていた私の中にいる「子どもの私」がダイレクトに反応したのだ。
「かいじゅうおどりだ!すごい!」
全世界の大人たち(良識や権力と言ってもいい)に宣戦布告するようなマックスの冒険は『ノンタン』と比べるよりも、『わたしは真悟』や『キーチ!!』、『未来世紀ブラジル』等と比較されるべきだと私は思う。
One, two, ready, go
Grow some big feet, holes in history
Is where you’ll find me, is where you’ll find
All is love, is love, is love, is love
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『かいじゅうたち〜』に関する過去のエントリ
映画&絵本「かいじゅうたちのいるところ」について
「かいじゅうたちのいるところ」とジョン・ラセターとスパイク・ジョーンズ
Karen O and the Kids / All Is Love