好きな人が好きな人が嫌いだったら? - 『ブルーノ』


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ミラノ・コレクションのステージ上で暴れてファッション業界を追放されたことから、ハリウッド・セレブになって見返そうと決めたゲイのファッション評論 家・ブルーノ(サシャ・バロン・コーエン)。流出させる目的で大統領候補とのセックスビデオを撮影しようとしたり、アフリカで養子を手に入れたりと、ブ ルーノ流セレブへの道をまい進していく。


ドッキリカメラが嫌いだ。全部とは言わないけど、そのほとんどは若手お笑い芸人や一般人などの「怒っても怖くない人」をターゲットにしていて、もし彼らが怒ったとしても「シャレが分からない」「心が狭い」と言われるだけ。何より仕掛ける側が常に安全圏にいるというのが気に入らない。どうせだったら、大物芸能人や政治家、ヤクザといった「シャレが通じそうにない人」に対してやればいいと思う。そこで初めて「笑い」が生まれるんじゃないの?


『ブルーノ』でターゲットにされるのは大物政治家、テロリスト、宗教家、軍人、有名芸能人、ゲイ全般、ゲイ嫌い全般、さらに一般人まで様々。「命がけ」という言葉は比喩的に使われることが多いけど、サシャ・バロン・コーエンがやってるのは文字通り「命がけ」のドッキリカメラだ。シャレで済む内容はまったくないので、殺されても文句は言えない。


命をかけてまでサシャがやりたいことは何なのか?究極のブラック・ユーモアなのか?差別なき差別か?笑わせたいのか?怒らせたいのか?実を言うとよく分からない。


自分の解釈でいけば、「好きなものと嫌いなものはすぐにひっくり返される可能性がある」ということを表現しているんだと思った。サシャ(ブルーノ)のことを最初は笑って観ていた人でも、途中からあまりの傍若無人さんに怒りを感じ、嫌いになる人は多いと思う。


そこで最後の「チャリティー・ソング」のシーンが活きてくる。一応伏せとくけど、超大物ビッグスターが登場するので彼らのファンは混乱するハズ。何しろ自分が好きな人が、自分が嫌いな人をリスペクトしているのだ。今後もファンで居続けられるのか?見損なったと嫌いになるのか?それともブルーノのことを認めるのか?


実際こんな簡単なことで人の価値観はグラグラ揺れてしまう。ここまで安全圏にいる傍観者だと思っていた観客は、劇中でサシャ(ブルーノ)にだまされた人たちのように右往左往することになる。『ブルーノ』は実は観客までもまきこむドッキリカメラだったのだ。下品が好きな人にオススメ。



(その他)
・「下品すぎる」という感想をよく見るけど、US盤Blu-ray(オリジナル)と比べたら随分マシですよ。
・最初の方に出ていたアジア系の小人(?)との組んず解れつシーンはほとんどカット。アレを赤ちゃんのゆりかごにするのが面白いのにぃ。
・自分の子供をモデルとして売り出そうとする狂信的な親達は怖かった。アレはヤラセじゃなくてマジなの?
Blu-rayのコメンタリで色々ネタばらし的な話をしてるっぽいが、英語分かんねー。
・今回チネチッタで観たけど、これこそシアターNクラスのミニシアターで観た方が盛り上がった気がした。
・字幕監修は町山さん。ドラッグの「エクスタシー」を「MDMA(ルビに「エクスタシー」)としていたのがナイス。


(参考)
命がけのバカバカしさ -『ブルーノ』(US盤Blu-ray) - THE KAWASAKI CHAINSAW MASSACRE

ゲイは世界を救…わない!?お笑い最終兵器、映画『ブルーノ』! - メモリの藻屑 、記憶領域のゴミ




と、ここまで書いたところでとある事実が発覚。

Ayman Abu Aita, the man depicted as a terrorist, has expressed his intent to sue Sacha Baron Cohen for depicting him as a terrorist falsely, lying to him about the interview telling him he's interested in the Palestinian cause while he's a Christian charity worker who spent eight years in Israeli jails.

Burûno (2009) - Trivia - IMDb


え〜!あのテロリストってフェイクだったの〜!?

人相悪過ぎるよ、おっさん。