ゾンビ・サーガもう1つの元ネタ(かもしれない) - リチャード・マシスン『死者のダンス』
名著『ゾンビ映画大事典』の続編に当たる『別冊映画秘宝ゾンビ映画大マガジン』を読みました。
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この中に町山さんによるジョージ・A・ロメロのインタビュー記事が掲載されています。ここでロメロは『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』、ひいてはゾンビ・サーガの元ネタについてこのように言及しています。
(「ゾンビ映画の本家本元」と言われ)
本家と言われてもなぁ。私のゾンビ映画はそもそもパクリなんだよ。
もともとはリチャード・マシスンが書いた『地球最後の男』という小説があるんだ。人類がみんな吸血鬼になってしまって、主人公だけが残るという話だ。
『地球最後の男』は最近だとウィル・スミス主演で『アイ・アム・レジェンド』のタイトルで3度目の実写映画化をされた古典的なSF小説です。藤子F不二雄もこの作品を元に『流血鬼』という短編を描いていますし、最近出版された『荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論』では、『アイ・アム・レジェンド』を「2007年に観た全ての映画の中でナンバー1」と評していました。
- 作者: リチャード・マシスン,尾之上浩司
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『地球最後の男』における「マイノリティとマジョリティが入れ替わってしまう恐怖」というのは、確かにゾンビ・サーガの大きなテーマになっていますが、同じリチャード・マシスンの作品で『死者のダンス』という短編があることをご存知でしょうか?
『死者のダンス』収録の短編集『13のショック』
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『地球最後の男』は1954年、『死者のダンス』はその翌年1955年に発表されました。ちなみに『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』は1968年の映画です。
『死者のダンス』のあらすじはシンプル。近未来、第三次世界大戦後の世界で大学生の男女4名がスリルを求め「ルーピーダンス」という死者のダンスを見せ物にするナイト・クラブに行くというものです。ところどころ「近未来のスラング」が登場するのが、『時計仕掛けのオレンジ』を彷彿とさせますが、こちらは1962年発表なので『死者のダンス』の方が先のようです。
小説で登場する死者はここでは「ルーピー」(「Lifeless Undead Phenomenon」の略)と呼ばれており、注目したいのはこの「ルーピー」の表現です。
その隈どった目は、象牙のように白くなめらかなまぶたの裏に閉じ込められている。その口は、くちびるがなく、鼻の下にじっとうごかず、まるで血の固まった刀傷のよう。その喉、その肩、その腕は、いずれも白く、じっとうごかない。その両脇に、透き通るような緑色の着物の袖先からだらんと突き出ているのは、雪花石膏のような両手。
また「ルーピー」は自身の意志で行動はできず、壊れたオモチャのように痙攣するような動きしかできません。これは、一連のゾンビ・サーガのゾンビ描写と非常に似ています。さらに「ルーピー」を見せ物にしていることで、ルーピーを「恐ろしいモンスター」というよりも「哀れな存在」として描き、逆に生者の方を「醜い存在」として表現している部分も、ゾンビ・サーガと共通する部分です。そしてラストには「ルーピー」に接触した女性が「ルーピー」になってしまうことを示唆する場面で終わります。
決定的なのがタイトルで、『死者のダンス』の原題は『Dance of the Dead』です。現在に至るまで本家ロメロも含めて繰り返し引用される「〜of the Dead」という言い回しの原点はここにあるのかもしれません。
このようなことからロメロが『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』を作るにあたって、強い影響を受けたのは『地球最後の男』だけでなく、この『死者のダンス』だったのではないかと思われまれます(明確にそれを示す文献は見たことがありません)。
実はこの『死者のダンス』は映像化されていて、監督は『悪魔のいけにえ』でおなじみトビー・フーパーです。ただし映画ではなく、多数のホラー映画監督によるオムニバス『マスターズ・オブ・ホラー』の中の1本で、『エルム街の悪夢』のフレディ役でおなじみのロバート・イングランドが出演しています。
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これだけ聞くとさぞかし傑作のような気がしますが、私の記憶ではあまり面白みがない凡作でした。『ゾンビ映画大マガジン』にもレビューが載っていて、「フーパーらしさがまるで見えてこない」「ブレる映像にチャカチャカ編集、一昔前のMTV風演出」と酷評してました。残念。
ということで、モダン・ホラーとしてのゾンビ映画の原点『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』のさらなる原点として『死者のダンス』をオススメします(超短いのであっという間に読み終わるよ)。
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