虚無ってこんなもん? - 『インセプション』

コブ(レオナルド・ディカプリオ)は人が夢を見ている最中に、その潜在意識の奥深くにもぐり込んで相手のアイデアを盗むことのできる優秀な人材だった。彼は、企業スパイの世界でトップの腕前を誇っていたが、やがて国際指名手配犯となってしまう。そんなある日、コブの元に“インセプション”と呼ばれるほぼ不可能に近い仕事が舞い込む。


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やたら評判が良い『インセプション』を観ました。当日Twitterでもさんざんつぶやいたんですが私的には今イチ。


夢にまつわる構造とか面白いし、夢の世界を強引に映像化した箇所は一見の価値ありとも思った。私が納得いかないのは、「サイトー(渡辺謙)がやりたかったことを実現するのに、インセプションをするしかなかった」とは到底思えないこと。サイトーは超がつく金持ちかつ権力者で、インセプションするための準備にも大金を惜しみなくつぎ込むが、それだけあったらこんな成功率が低い作戦よりも何か他に方法あるんじゃね?と思えてならない。これが、「実はサイトーには別の目的があって…」とかなら分かるんだが、それもなかったし。


非常に困難なミッションを行うクルーの中で、コブ(ディカプリオ)だけはその行動理由が明解だけど、それ以外の人が何の為に生死をかけてあんなことを一生懸命やってるのかよく分からないのも不満。コブの罪悪感により妻のモルがそのミッションを邪魔するというのも、構造として面白いもののやはりドラマとしてはいびつな印象がある(そこだけをつきつめればいいと思うけど)。


夢から戻ってこれなくなる「虚無」という概念も、「サイトーのアレ」がそうなの?と納得いかず。回りに話し相手がいるって時点で虚無じゃないだろ?ノーラン監督には『火の鳥-未来篇』とか読んで出直して欲しい。


様々な解釈が可能なラストに関しては嫌いではない。私としては、妻への罪悪感から精神に異常を起こしたコブを救う為に、恩師であるマイケル・ケインが中心になり皆(ディカプリオ以外全ての登場人物)でインセプションしたんじゃないかと思う。そう考えると色々すっきりする。ただ、そうなると『シャッター島』と同じ話になるんだけどね。


(その他)
・上にわざわざ韓国版ポスターを貼ったのは、日本版ポスターと違ってディカプリオ以外が後ろを向いてるから。これも私の「ディカプリオ以外はグル」説の根拠になってます。
ヴェンダース『夢の涯てまでも』では「夢が見れるマシーン」が出てくるが、それを見た人はその世界のとりこになって戻ってこれなくなる。
・そもそも夢ってもっとはちゃめちゃでぐちゃぐちゃだと思うんだよね。


火の鳥 (2) (角川文庫)

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