「地下鉄のザジ」
母親とパリにやって来た少女ザジは芸人の叔父に預けられるが、彼女の楽しみは地下鉄に乗る事。だがストで地下鉄が動いていないと知ったザジは、ひとりで街へくりだしてしまう……。ザジがパリを離れるまでの36時間の冒険をスラップスティック調で描いたコメディ。
WOWOWで放送された「地下鉄のザジ」を見ました。HV放送に惹かれて急遽WOWOWに加入して見たんですが、DVD版と比べて極端に画質が向上していた、ということはありませんでした。しかしザジの口癖である「Mon Cul」の字幕が「ケツ食らえ」になっていたのは良かった。
この「Mon Cul」は直訳すると「私の尻」。原作の訳者である生田耕作はこれを「ケツ食らえ」と訳した。うまい!以前見たVHS版でも「ケツ食らえ」になっていたが、なぜか現在流通されているDVD版では「うんざり」と訳されていて批判が多かったのだ。
ザジが「Mon Cul」とつぶやく度に大人達は大騒ぎするのでかなり汚い言葉と思われる。他に小説版でのザジのセリフにこんなのもある。
【原文】Napoléon mon cul, réplique Zazie. Il m’intéresse pas du tout, cet enflé, avec son chapeau à la con.
映画『地下鉄のザジ』を観て、パタフィジックに改めて思いを馳せる|もずくスープね
【生田訳】「ナポレオンけつ喰らえ」ザジは剣もほろろに。「ぜんぜん興味ないわよ、あんな水ぶくれ、おまんこみたいな帽子をかぶってさ」
「おまんこみたいな帽子」って(笑)。ひどいなぁ。
改めてこの映画の魅力について考えてみた。
1)デタラメ映画として
ナンセンスでシュールなスラップスティック・コメディとして細部までとてもよくできている。そして同時に「ヌーヴェルヴァーグ運動の1本」でもあるし、「チャップリン等の古典的コメディ映画へのオマージュ」でもある(「さようなら子供たち」にもチャップリンの映画を見るシーンがフューチャーされていた)。ラスト近くのバーでの暴動シーンはカオスの極みでカメラマンがダイブまでする。ストーリーはないに等しいし、意味なんか無い。何かの教訓を得る事だってない。10歳の女の子がパリで36時間過ごし、最後に「年を取る」。それだけの映画なのが素晴らしい。
2)ザジの存在感
上にも書いたように子供とは思えない汚い言葉で大人をけむに巻き、会う人会う人にテキトーな身の上話をするところなんて子供版ジョーカーといってもいい。夢は「学校の先生になって生徒をいじめること」なんて、どんなアナーキストだ。そのくせ、オカッパ頭にオレンジ(赤?)のタートルネックにグレーのプリーツスカートかジーンズというオシャレ上級者っぷり(娘にコスプレさせてぇ)。可愛過ぎて死ぬ。
3)1960年のパリ
舞台は1960年のパリで、日本だと昭和35年。つまり「ALWAYS三丁目の夕日」と同じ時期。単純に比べられるものではないけれど、この時代のパリの美しさは異常。街に溢れる車、建築物、インテリア、どれも驚く程かっちょいいし古くなってない。観光バスの近未来的デザインも最高。おじさんと出かけるエッフェル塔のシーンも美しい。
4)オープニング映像&音楽
↓Zazie dans le metro OP&ED
手書きの赤い文字に口笛のメロディが超ツボ。
知らなかったけど↓こういうサントラが発売していたらしい。欲しいいい。
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そんな「地下鉄のザジ」は公開当時あまり評価されなかった模様。オサムグッズで有名な原田治は、
ルイ・マル監督はすでにヌーベル・ヴァーグの旗手として知られ、ぼくには『死刑台のエレベーター』('57)『恋人たち』('58)と続き、モダンでカッコイイの代名詞のような大好きな映画監督でした。それでもこの『地下鉄のザジ』だけは日本ではヒットせず、ある映画評論家などは今回は失敗作といってけなし、大衆からも映画通からも相手にされなかったので、この映画で生まれて初めて「可愛い」の洗礼を受けたような、ぼく(いっぱしの映画通のつもりだった)などは、たいそうくやしい思いをしたものです。
地下鉄のザジ - 原田治ノート
と語っている。「可愛い」の洗礼を受けた、ってのはよく分かるなぁ。ナンセンス・コメディはいつの時代でも見る人を選ぶので、良さが分からない人も多いと思うけど、好きな人には宝物になる1本。オススメ。
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