観ナイトイケナイ-「罪とか罰とか」
万引きで捕まったことからなぜか一日警察署長をやるはめになった、B級グラビアアイドルのアヤメ(成海璃子)。そこで、刑事として働く元恋人の春樹(永山絢斗)に再会。何と春樹は殺人鬼で、この日も恋人(佐藤江梨子)を殺していた。しかし、今でも春樹を思うアヤメは、目撃者(段田安則)から受け取った証拠の品を隠そうとする。
「買ワナイカライケナイ」
コレは85年にNHKで放送されたドキュメンタリー「インディーズの逆襲」の中でのKERAの一言。私はたまたまこの番組をリアルタイムで見て多いに影響を受けたんだけど、この話は長くなるので割愛。
今作はKERA初の「ナンセンス・コメディ」ということで期待しつつも控えめな気持ちで観ましたが、結果とても面白かった!ただ自分にはこの笑いがド真ん中ストライクだったけど、人によっては違うかも(Yahoo!映画レビューでの評価は見事にまっ二つ)。
今作は「成海璃子が主演のコメディ映画」という売り方がされているけど、実際は不条理なブラック・コメディでかつ群像劇に近い(ファースト・カットにはカフカの言葉が引用される)。一応軸は「売れないグラドル」の成海璃子=アヤメがひょんなことから「一日警察署長」をやる話なんだけど、「タレント事務所のマネージャー犬山イヌコ&売れっ子の同期グラドル」や「コンビニ強盗を目論む3人組」、「ただの会社員」等の異なるシチュエーションがあって、これらが後半徐々に絡み合う複雑な構成。時間軸をごちゃごちゃにしているあたりも含めてKERA版「パルプ・フィクション」ともいえるかも。
ずっと自信なさげにウジウジしていたアヤメが、土壇場で魅せる快進撃がとても好きだ。そのきっかけが死ぬ程くだらないんだけど(笑)。人生は不条理そのもので、真面目にやっててもうまくいかない時はうまくいかない。「どうして自分だけが」と思うことばかり。でも考え方をちょっと変えるだけでも大逆転だってできるハズ。だって不条理だから。カフカの小説を「暗く陰惨な物語」と感じるか「楽しいコメディ」と感じるかはその人次第だ。
あたしのページが逆さまなんじゃなくて、ほかの全部のページが逆さまなの
辛い時や疎外感を感じた時にはこの言葉を思い出そう。
KERAは小中学生の頃に観たコメディ映画に「救われた」と語っている。今彼は同じように「誰かを救う」映画や演劇を作ってると私は感じている。その誰かが誰なのかは分からないけど、とにかく観ナイトイケナイ。オススメ。
その他
・ラスト近くに犬山イヌコが「いかにもキレイにまとめ」そうなセリフを言おうとして、「あぁソレを言っちゃつまらなくなる!」と瞬間思ったら、見事な着地。ここは本当に感心した。つか、犬山さん演技うめー。
・コンビニ強盗の1人を演じた奥菜恵も良かった。常にキレてて最高。
・KERA組の1人といえる麻生久美子がセリフすらないのにありえない印象を残す怪演。麻生久美子主演での「罪とか罰とか」も観たかった気がするけど、そうすっと(衣装を含めて)まんま「時効警察」になっちゃうな。
・その麻生久美子と比べると、「コメディ開眼!」とまではいかなかった成海璃子だけど、終始暗い役柄だったのが案外、地なのかと思った。
・「僕らのミライへ逆回転」に続く、くだらないにもほどがある「おしっこギャグ」が最高。
(参考)
インディーズの襲来 - 2KERAの出番は6:16あたりから。