そこに愛はあるのか?-「チェブラーシカ」

オフィシャルサイト

ある日、ロシアの小さな街の青果店の主人はオレンジの箱に入った小さな動物を発見する。その正体不明の動物はチェブラーシカと名付けられ、ディスカウントショップのディスプレイとして電話ボックスで寝泊まりすることになる。一方、動物園で働いているワニのゲーナは突然自らの孤独が身にしみて、友人募集の張り紙を街中に貼り出す。


「おとうさん『ぽにょ』がみたい」
「...お父さんジブリ嫌いだからダメ」
「えーみたいよー『ぽにょちゃん』みたいー」
「ダメと言ったらダメ、おさかなだったら『ニモちゃん』にしなさい」
「(目にいっぱい涙をためて)...おとうさんきらい」
「(汗)えーと、ほ、ほら『チェブラーシカ』やってるじゃん。チェブちゃん好きでしょ?こっちにしない?」
「ちぇぶちゃんすきー!それでいい!」


というやり取りの後、チネチッタに娘と「チェブラーシカ」を観に行きました。「あやうくジブリの罠にかかるところだったぜ」と思って席についたら、始まったのはジブリのCM。知らなかったけど、今回の映画は「三鷹の森ジブリ美術館ライブラリー」が提供や配給までやってるのだ。見事に罠にかかってしまったよ...。


私は2001年にユーロスペースで公開された時から観に行ってる生粋の「チェブ好き」だけど、今回わざわざ再上映した理由がよく分からない。一応「デジタルリマスター」らしいし(別にそんなにキレイでもなかった)、2001年時には上映されなかった「チェブラーシカ学校へ行く」が初上映され「完全版」になったという違いは一応ある(ただしDVDには特典映像として収録されていたので初出しではない)。ジブリが「あまり有名ではない作品を知ってもらおうとして」公開したわけでもない。チェブラーシカは十分に有名だ。

何と言ってもオフィシャルサイトに漂うジブリ臭が気に入らない。「私達がこの映画を見つけました」とでも言ってるみたいだ。


私の100倍ジブリが嫌いな嫁さんは、昔から大好きだった「ゲド戦記」をよりにもよってジブリが映画化した上に、「指輪物語」のように原作ファンも納得する出来ならいざ知らず、その正反対の結果(実際は見てないから知らないんだけど)になったことに怒りまくっていたが、「チェブラーシカ」もジブリに取り込まれたみたいで何だか納得いかない。また提供には「日本テレビ」や「ディズニー」という大企業も名を連ねている。これは何なのだ?


元々チェブラーシカを日本に広めたのは吉田久美子さんという1個人だ。彼女はたった1人で映画を配給した。


月刊チャージャー-ロシア産・正体不明の生物を、退職金をはたいて買い付けた女性。

映画「チェブラーシカ」を配給するための契約金は300万円。加えて、宣伝費などもろもろで計約1000万円はかかる。退職金をはたいてもまかないきれず、出資者を集めることに。
(中略)


キャラクターグッズの売り出し方について意見がぶつかってしまい、共同出資してくれた出版社と決裂。大々的に売り出したかったみたいだけど、私はあくまで映画を愛してくれた人だけが買ってくれればいいと思っていた。実はよそからもいろいろ引き合いがあったんですけど、片っ端から断りました。たとえ数十億をフイにしたとしても、チェブラーシカの安売りはしたくなかったから。


他にも、ここでは言えないような大きな会社が介入してきたり……とどめは、ロシアの権利元から起こされた訴訟! チェブラーシカの権利はアメリカの会社が保有していて、きちんと筋を通して契約したはずなのに、日本での人気を見て「あれはウチのものだ」と横槍を入れてきたんです。

http://promotion.yahoo.co.jp/charger/backnumber/category/warashibe/vol02.php


劇中で正体不明のチェブラーシカを救って友達になったのは心優しいワニのゲーナ。彼の優しさが溢れ出てるシーンにこういうのがある。

汽車のチケットを盗まれて大量の荷物を抱えて歩き続ける2人(匹)。

「ゲーナ、もしかして荷物が重いの?」
「大丈夫だよ、チェブラーシカ
「じゃあボクが1つ荷物を持つよ。その代わりゲーナは僕を持って」
「分かったよ、チェブラーシカ
チェブラーシカに気づかれないように、こっそりと他の荷物を捨てるゲーナ。



「意味ないじゃん!」とつっこむ私はいつもここで泣いてしまう。



吉田さんを駆り立てたのはチェブラーシカへの愛だと言ってもいい。その愛はゲーナと同じかそれ以上だ。少なくとも金儲けがしたかったわけじゃない。ただこの愛すべきキャラクターを日本に紹介したかっただけなのだ。


そして今、色んな権利をクリアした「チェブラーシカ」は晴れてジブリのものになった。これが良かったのか悪かったのか。


映画館はたくさん人が入っていた。上映終了後「かわいかったねー」の声を多く聞いた。娘も満足そうだった。私だけが釈然としないまま映画館を後にした。


そこに愛はあるのか?


(参考)
ほぼ日刊イトイ新聞-チェブラーシカを連れて。


チェブラーシカ [DVD]

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映画秘宝 2007年 10月号 [雑誌]

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