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自分探しが止まらない - 『ランゴ』

MOVIE

ドライブ中に水槽ごと道路に投げ出されてしまい、砂漠でさまよう羽目になったカメレオン、ランゴ。自分とおもちゃしかいなかった水槽の世界から一転、ダートという町に流れ着いたランゴは、人間関係、生存競争などに満ちた現実世界の厳しさを知っていく中、町からなくなった水を取り戻す依頼を受ける。


オフィシャルサイト


娘と横浜で『ランゴ』を観ました。予告編を観た時の印象と本編を観た時の印象がまったく違うケースというのが時々ありますが、本作がまさしくソレでした。


予告編ではとにかく「ジョニー・デップが声優を熱演」ということを強調しており、映像も楽しいCGアニメに見えるので、劇場には(自分も含めて)子供連れやカップルが多かったようです。おそらく『チャーリーとチョコレート工場』みたいにポップでカラフルな家族で楽しめる映画を想像していたと思います。しかし、実際にはゴア・ヴァービンスキー監督の「西部劇愛」や人生観がこれでもかと詰まった大人向けの激シブ映画なのでした。


ある日突然砂漠の真ん中に放り出されたペットのカメレオンが主人公なのですが、彼には名前がありません。これは『ファイト・クラブ』の「僕」(エドワード・ノートン)と同じく「自分がなく空っぽ」であることを意味しています。ただし、ずっと水槽の中で1人(匹)で「ごっこ遊び」に興じていたので、その場の雰囲気にあわせて「誰かを演じる」ことは得意です(カメレオンだからね!)。


砂漠の真ん中にある西部劇に登場するような寂しい町に辿り着いたカメレオンは、名前を問われとっさに「ランゴ」と答え、あたかも腕利きのガンマンのように演じます。「自分の理想像を演じる」様はまるで『ファイト・クラブ』におけるタイラー・ダーデンブラッド・ピット)を思わせます。町の人(動物だけど)に受け入れられたランゴは保安官に任命され、大切な水が無くなってしまう事件の原因を探るというのが大まかなストーリーです。端的に言えば『サボテン・ブラザーズ』と同じような話です。


ストーリー自体は極めてシンプルなのですが、セリフは持って回った言い回しが多かったり、不可思議なキャラ(メキシコ訛で話す謎のアルマジロや「西部の精霊」等)が登場したりで、少々難解で哲学的な所があります。この「西部の精霊」というキャラは、アレックス・デ・ラ・イグレシアの『マカロニ・ウエスタン 800発の銃弾』にも登場した「西部劇の象徴」なので西部劇ファンにはたまらないと思います。


実際にはどうか分かりませんが、『パイレーツ・オブ・カリビアン』を大ヒットさせたお礼(?)として、ゴア・ヴァービンスキー監督がかなり自由に作った映画であるように感じました。深読みすると、『パイレーツ〜』を作りながら「オレが本当に作りたいのはこんな映画じゃない」「本当のオレって何なんだ?」という想いがあって、そんな経緯からランゴという「自分探しキャラ」を生み出したのかもしれません。その結果、(良いか悪いかは別にして)ファミリー向け映画というよりも、監督の作家性が強く反映された作品となってました。


ちなみに本作は「エモーション・キャプチャー」で作られた、と宣伝されています。

声だけでなく動きを含めた演技全体もカメラで収録するこのプロセスは「動き」(モーション)だけでなく「感情」(エモーション)をも映像に封じ込める「エモーション・キャプチャー」と呼ばれています。「アバター」などでも使われたこの手法により、CGの作り物っぽくなりがちなアニメーションにホンモノの命が吹き込まれているように見えるのです。

映画『ランゴ』特設コンテンツ


これがエモーション・キャプチャー?


ややこしいですが、『アバター』のメイキング等で確かに「エモーション・キャプチャー」という単語は登場しますが、これは「モーション・キャプチャー(パフォーマンス・キャプチャー)」という「人物にマーカーをつけて撮影しそれを元にCG映像をマッピングさせる技術」が、あたかも俳優の感情までも再現するという意味で「エモーション・キャプチャー」と呼んだだけです。


アバター』特別映像(エモーションキャプチャー編)


対して『ランゴ』における「エモーション・キャプチャー」は、メイキング映像を見る限りですが、俳優が演技をしながらアフレコすることを指しているようでまったく意味が異なります。ちなみに『かいじゅうたちのいるところ』もこの方法でアフレコされました。


Rango Featurette Official (HD)


そんなこんなで本作は、決して子供&ジョニー・デップファン向け映画ではなく、むしろコアな映画好き(特に西部劇好き)がウヒョーと喜ぶ作品なのでした。オススメ。


(その他)
・ヒロインの名がBeansなのですが、字幕ではマメータでした。ビーンズでいいじゃん。
・音楽担当のフクロウたちがかわいかった。
・8歳児の感想は近日中に「小学生映画日記」に載るハズ、多分。