「希望名人ゲーテと絶望名人カフカの対話」を読みました
少し前に図書館で借りて読んでみたら余りにも面白くて、できれば常に手元に置いて事あるごとに読み返したいと思い購入しました。ゲーテは『若きウェルテルの悩み』で有名な作家、そしてカフカは最近新訳も話題になった『変身』で有名な作家です。
本のタイトルは「〜対話」とあるけれど、ゲーテは18世紀の作家でカフカは20世紀の作家なので実際に2人が対話をしてるわけではありません。これは「常にポジティブに物事を考える」ゲーテの名言と、「常にネガティブに物事を考える」カフカの名言(?)を同じテーマで並べたいわゆる名言集です。
一般的な「名言集」というと、一握りの成功者による(ゲーテのような)ポジティブな言葉が並んでいるモノを想像しますが、自分はその手の本が苦手です。読んでるとポジティブな気分になるどころか、逆に落ち込んでネガティブな気分になったり、さもなくば怒りがこみ上げてきます。そもそも一握りの成功者に「あきらめなければ夢は必ず叶う」とか言われても正直困るし何の意味もないと思います。
そんな中でこの本の帯に書いてある二人の名言を読んで、目からウロコが落ちました。
ゲーテ
「希望は誰にでもある。
何事においても、絶望するよりは、希望を持つほうがいい。
先のことなど、誰にもわからないのだから」
カフカ
「ああ、希望はたっぷりあります。
ーただ、ぼくらのためには、ないんです」
どうですか、このカフカの突き抜けたネガティブっぷり!私もどちらかというとネガティブな性格だし「最悪のパターンを常に想定する」ところはありますが、「いやいやいや、カフカ君そんな事ないって!」と酒の席とかで励ましたくなります。そして不思議なことにあれだけイヤだったゲーテのようなポジティブ発言に対しても、衝動的に嫌悪感を感じることはなく、「まぁ、どっちもどっちじゃね?」というフラットな気持ちで接することができました。
ところで、この本のタイトルを見てマンガ『さよなら絶望先生』を思い出した人も多いと思います。何事もネガティブに捉えることしかできない「糸色望(いとしきのぞむ)」と、何事もポジティブに捉える(正確には電波的発言が多くその背景に深い闇が見え隠れする)「風浦可符香(ふうらかふか)」という登場人物がいるからです。
その『さよなら絶望先生』に登場したネタに「半分だけ水が入ったコップ」を見て、絶望先生は「大変だ!もうコップに半分しか水がない!お終いだ!」と焦り、別の生徒は「良かった。まだコップに半分も水がある」と真逆の反応をするというのがありました。同じような話をこの本のまえがきで作者の方も書かれていて、曰く
「ボトルにまだ半分も酒が残っている」と「ボトルにもう半分しか酒が残っていない」は二つ並べて読むことで、はじめてそれぞれの意味合いが際立ちます。
まさしくこの本の本質を言い表した言葉だと思いました。
せっかくなんで、他にもゲーテとカフカの名言を並べてみましょう。
ゲーテ
「厚い雲、たちこめる霧、激しい雨の中から、
希望はわれわれを救い出す」
カフカ
「救世主はやってくるだろう。
もはや必要ではなくなったときに」
ゲーテ
「自信を持つことです。
そうすれば、どう生きればいいのかわかりますよ」
カフカ
「この世界での、この町での、ぼくの家庭での、
自分の位置というものに、まったく自信が持てない」
「漫才かよ!」とつっこまずにはいられない、この正反対な名言に思わず笑ってしまいます。こうして並べてみると、スチャダラパーの『後者 - THE LATTER -』を思い出します。
やるべき事はやる自由人
ただただ何もしないヒマ人
バカがつくほどの 正直者
バカであってなお お調子者
完全主義で超努力家
いきあたりばったりでモロ楽天家
情報に流される人
妄想に身をまかせる人
明るくて活発な人
明るくても不発で終わる人
行動がヒューマニスト
言動が まんまマルキスト
ビシッときめるとこきめる奴
バッチリ決めててもはずす奴
竹を割ったような性格
竹を割るような生活
週末、仕事を忘れる奴
終始、仕事を忘れてる奴
みんなが認める人
みんなを認める人
スチャダラパー 後者 - THE LATTER - YouTube
他にも、この本の特長は装丁がユニークな事。ゲーテのパートは「白地に黒字」、カフカのパートは「黒地に白字」になっていて、それを見開きで並べるといったように徹底的に白と黒の対比でデザインされていて、ご丁寧にも栞のヒモまで白と黒の二本が付いていたりします。また、それぞれの名言に関する解説も、ゲーテとカフカの様々なエピソードを交えながら説明されていて、こちらも興味深く面白いです。
ポジティブな人にもネガティブな人にもオススメです!
- 作者: フランツ・カフカ,Franz Kafka,高橋義孝
- 出版社/メーカー: 新潮社
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