自殺は希望か絶望か? - スーサイド・ショップ
『スーサイド・ショップ』3D版を有楽町で観ました。
どんよりとした雰囲気が漂い、人々が生きる意欲を持てずにいる大都市。その片隅で、首つりロープ、腹切りセット、毒リンゴといった、自殺するのに便利なアイテムを販売する自殺用品専門店を開いているトゥヴァシュ一家。そんな商売をしているせいか、父ミシマ、母ルクレス、長女マリリン、長男ヴァンサンと、家族の誰もが一度たりともほほ笑んだことがなかった。人生を楽しもうとしない彼らだったが、無邪気な赤ちゃんが生まれたことで家庭内の雰囲気が少しずつ変わり始め……。
パトリス・ルコント監督作品は初期の『仕立て屋の恋』や『髪結いの亭主』の頃は好きで観てましたが、ここ10年以上は公開されていた事もほとんど知らず、失礼ながら「過去の人」扱いしてました(すまん)。そんな彼の新作がアニメーション作品(実写監督がアニメーション撮るって珍しいよね?)ということと、さらにテーマが「自殺」ということに興味を惹かれ鑑賞。後で知りましたが、監督は昔イラストレーターとしてバンド・デシネを描いていたそうです。
最近のフランスのアニメーション作品といえば、少し前に観た『パリ猫ディノの夜』や、数年前の『イリュージョニスト』等が思い出されますが、どれもオリジナリティが高い「動くバンド・デシネ」という感じで強く印象に残っています。もっと昔だとカルト作品として名高い『ファンタスティック・プラネット』なんかもありました。本作『スーサイド・ショップ』の映像もやはり独特で、3D作品ではあるけれどピクサーやドリームワークス作品のような立体感はなく、キャラクター等は2Dのままでキャラと背景との奥行きを重視した作りになっていて、まるでポップアップブックを見てるようでした。
映画の前半は、パリと思しき都会で自殺者を支援(?)する「自殺用品専門店」と、その店を経営する超ネガティブ思考な家族(営業スマイル以外では笑うことはない)をミュージカルを交えて紹介します。
店主のミシマ(もちろん三島由紀夫がモチーフ)は日の丸ハチマキを締めて客に切腹を勧めるし、妻のルクレスは女性客に香水のようにお洒落な毒薬を勧めたりとブラックなネタが満載ですが、アニメーションやミュージカルというオブラートに包むことで重くならず、純粋に楽しみながら観ることができました。
そんな超ネガティブ家族の元に、なぜか超ポジティブ思考の次男坊アランが生まれます。言ってみれば『さよなら絶望先生』の絶望先生が風浦可符香に出会ったようなもので、両親は「どうして我が家にこんな子供が生まれてしまったのか?」と不思議で仕方ありません。両親はアランの兄さんや姉さんのようにネガティブで後ろ向きな性格になるように育てようとしますが、逆にアランの底抜けなポジティブさによって、店と家族は少しずつ変わっていくのでした。
しかし、この展開は容易に予想がつくし、あまりにもあっさりと家族がポジティブ思考になってしまうのが安易に思え、個人的にはちょっとがっかりでした。「はいはい、これで家族皆が生きる事の素晴らしさを知ってハッピーエンドね」…と思ったら、最後の最後にさらっととんでもないシーンが待っていたのでした。
(ここからネタバレ含みます)
色々あって自殺用品専門店は笑いが絶えないクレープ屋さんになって繁盛しますが、そこへ店が変わったことを知らない自殺志願者がやって来ます。そんな彼にミシマは家族にバレないようにこっそりと青酸カリを渡すのでした。
この時のミシマの心境ははっきりとは分かりません。想像するに、いくらこの店が変わったとしても自殺志願者がいなくなることは決してないし、この店のポジティブさでも救えない絶望がこの世にはあって、そういう人にとっては自殺は希望であり、自分のような自殺支援はやはり必要なのだ、というミシマの(もしくは監督の)意思表明にも取れました。思い起こせば『髪結いの亭主』のラストも、奥さんの唐突な自殺で終わったのでした。
そんなわけで、とてもモヤモヤした気分で映画を観終わったのですが、実は原作の方はもっと驚く結末だったのです。それは監督が「(そのまま映画化したら)映画館を出た観客が車に飛び込んでしまう」と語るくらい悲惨なものでした。
(ここから原作のネタバレ含みます)
原作のラストでは、アラン以外の家族全員が「生きることや家族の素晴らしさ」を心から実感したまさにその瞬間、アランは「使命遂行」とつぶやき自殺してしまいます。もう読んでた本を落とすくらいびっくりしました!
この時のアランの心境もはっきりとは分かりませんが、アランは家族に「愛する人を自殺で失う絶望感」を教えたかったのかなと思いました。「自殺」をテーマにした作品としては、この原作のラストの方がもしかしたらふさわしかったのかもしれません。
フランスも自殺者は多いようですが、統計によると日本はフランスよりも自殺率が高いそうです。この映画と原作本で今一度自殺について考えるのも良さそうですね。
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