本当は恐ろしい『銀河鉄道の夜』
娘さんが宮沢賢治『銀河鉄道の夜』を読んだというので、映画版も見せたいなと思っていたら、ナイスなタイミングでBS11で放送されたので一緒に観ました。この劇場アニメ版は85年の作品で私も随分と昔に観たのですが記憶が曖昧で、今回再見したところあまりにも暗くて恐ろしいトラウマ映画だったので驚愕しました。
映画は、少年ジョバンニが学校で仲間外れにされている描写から始まります。彼は父が行方不明で母が病気なので学校が終わってからも働いており、楽しいお祭りの日なのに居場所がなく1人ぼっちです。前半は、ジョバンニの孤独を表現した描写と、「この先何か不幸な出来事が起きる」と予感させる不吉な描写が入り組んでいて、とにかく恐ろしかったです。
そしてどこからともなくやって来た銀河鉄道に乗って、唯1人の友達カンパネルラと一緒に不思議な旅に出ます。ここからの展開はとてもシュールでまるでリンチ映画を観てるようでした。この旅でジョバンニはキリスト教における様々な死生観を象徴する出来事に遭遇し、最終的に自己犠牲の尊さを知る事となります。ちなみに宮沢賢治自身は熱心な仏教徒だったようですが、この自己犠牲を尊ぶという思想に感銘を受けていたようです。
登場人物のほとんどはますむらひろしによるネコのキャラクターですが、唯一の例外がタイタニック号をモチーフにしたと思われる「沈没した船に乗っていた乗客」で彼らだけは普通の人間の姿をしています。ネコのキャラクターと人間が普通に会話するシーンはとても奇妙な不思議な気分にさせられました。
↓ちょっとあだち充キャラっぽい女の子
この映画の重要な要素が細野晴臣(彼の祖父はタイタニック号に乗っていた唯一の日本人)による音楽で、映画の内容を忘れてもこの曲だけは覚えているという人(私含む)は多いのではないでしょうか?
音階が独特でどことなくエスニックな雰囲気があるものの具体的にはどこの国の音楽でもなかったり、美しいメロディだけどちょっとチューニングをずらして不安定な気持ちにさせる要素を含んでいたりと、幻想的でありながらミステリアスな映画の雰囲気と非常にマッチしていました。ぜひ爆音上映で観てみたい(聴いてみたい)ところです。
また、劇中に登場する言語は全てエスペラント語で、賢治自身もエスペラント語を学んでいたそうです。彼の作品の舞台として多く登場する「イーハトーブ」は、ふるさとの「岩手」をエスペラント風に発音したものとされています。ジョバンニの住む町の風景や細野さんの音楽が無国籍なのも全てここに繋がっているのですね。
7月には『銀河鉄道の夜』のスタッフによる新作『グスコーブドリの伝記』も上映されるので、こちらも楽しみです。オススメ。
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