俺たち気弱な殺人鬼?! - 『タッカーとデイル 史上最悪にツイてないヤツら』

とても仲がいい中年男のタッカー(アラン・テュディック)とデイル(タイラー・ラビーン)は、手に入れたばかりの別荘で休暇を過ごすため森へやって来る。しかし、同じころに近所にキャンプに来た大学生グループから、森の奥深くに住む殺人鬼と勘違いされてしまう。さらに、二人が川でおぼれかけていた女子大生を救出したことが誤解を招き、思いもよらぬ事態へと発展していく。


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渋谷に『タッカーとデイル 史上最悪にツイてないヤツら』を観に行きました。「未体験ゾーンの映画たち2012」(LINK)という未公開作品を集めた映画祭の中の1本だったんですが、「なぜこれが未公開?」と思うくらい、文句なしに面白かったです!


本作は『悪魔のいけにえ』や『13日の金曜日』といった、「都会からやって来た学生が、田舎に住む殺人鬼等邪悪な存在にひどい目に合う」という、いわゆるヒルビリー・ホラーのスタイルを逆手に取った作りになっていて、田舎の殺人鬼と思った人が実は気の小さい優しいおっさんでした、というホラー・コメディになっています。私は映画監督でも何でもないのですが、このひょうたんからコマ的な発想をなぜ今まで思いつかなかったのか?と嫉妬するくらい悔しい思いをしましたw。


映画が始まってすぐに、森の中にあるタッカーとデイルが購入した小屋が登場します。観客である我々はここがただのさびれた小屋だということを認識しているのでまったく怖くはありません。しかし彼らを殺人鬼と勘違いした学生達がこの小屋を見る時、オドロオドロしい音楽がかかります。たったこれだけでこの小屋は「殺人鬼が住む邪悪な屋敷」としか見えなくなってしまいます。これは映画のマジックであるのと同時に、思い込みや偏見というものがいとも簡単に心象を替えてしまうことを表していてとても感心しました。


誤った思い込みをするのは学生だけではありません。タッカーとデイルも学生達に対して「都会の女の子は××だ」と思い込んだり、あるいは自分自身を「取るに足らない存在だ」と思い込んだりしています。どっちもどっちなんです。


こうしてお互いのほんのちょっとの思い違いから、どんどん誤解が生まれ修復不可能な状況へと変わっていきます。途中、タッカーとデイルに助けられたヒロインが必死に皆の誤解を解こうとしますが、「×××症候群ね」の一言で台無しになるシーンは腹を抱えて笑いました。


また、ホラー映画が好きな人にとっては、チェーンソーやウッドチッパーといったいかにもな道具が登場するだけで、ニヤニヤが止まらないと思います。それらはまったく期待通りの働きをしてくれるのでお楽しみに。ゴア描写はそれなりにありますが、あまりにもバカバカしい描写ばかりなのでホラー苦手な人でも大丈夫だと思います。


ホラー・コメディとしての面白さ以外では、『宇宙人ポール』でも顕著だったサイモン・ペグとニック・フロストコンビ並の、超仲がいいおっさん2人のやり取りに萌えまくること間違いなしです。終盤、タッカーがデイルに「お前はお前が思ってる以上に立派な男だ」というシーンはうっかり泣きそうになりましたよ。あと、デイルの飼ってる犬ちゃんも超かわいいです。


↓デイルと犬ちゃん


↓気の毒ながら自業自得な学生たち


ほとんど欠点が見当たらない映画ではありましたが、×××の子供が(潜在的ではるものの)×××だったというオチは少し問題があるように思えました。コメディとして軽く流すべきかどうかはちょっと微妙かも。あと、邦題が『タッカーとデイル〜』なのに、字幕では「デール」だったように思ったのですがどうでしょう?記憶違いだったらすんませんが、何か違和感あったので。


渋谷と大阪でしか公開されていないのがもったいない傑作でしたので観に行ける方はぜひ。オススメです。


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