大人になっても戦い続けるピッピ - 『ドラゴン・タトゥーの女』
月刊誌「ミレニアム」で大物実業家の不正行為を暴いたジャーナリストのミカエル(ダニエル・クレイグ)。そんな彼のもとに、ある大財閥会長から40年前に起こった兄の孫娘失踪(しっそう)事件の調査依頼が舞い込む。連続猟奇殺人事件が失踪(しっそう)にかかわっていると察知したミカエルは、天才ハッカー、リスベット(ルーニー・マーラ)にリサーチ協力を求める。
『ドラゴン・タトゥーの女』を川崎で観ました。原作未読、オリジナルの『ミレニアム』は鑑賞済みです。ちょっとだけネタバレ含むので観賞後に読まれることをオススメします。
パンフレットによれば、原作者のスティーグ・ラーソンはスウェーデンのジャーナリストでミステリー小説の衣を着せた上で権力の腐敗や女性への不当な暴力といったスウェーデンの暗部をさらけ出すようなものを書きたかったようです(しかし出版直前に亡くなり、自著のベストセラーを知らないままこの世を去りました)。同じように元ジャーナリストのマイ・シューヴァルとペール・ヴァールー夫婦が描いた『笑う警官』(角川映画のアレとは別)を含めた「マルティン・ベック」シリーズという警察小説(『ドラゴン・タトゥーの女』と同じく猟奇殺人も取り扱っている)もスウェーデンの暗部をさらけ出す内容になっていて、スティーグ・ラーソンは彼らの後継者といえるかもしれません。
ストーリーはジャーナリストのミカエルと、ゴスで腕利きハッカーであるリスベットという意外な組み合わせのコンビが、とある女性の失踪事件を調査するうという、『羊たちの沈黙』や『48時間』みたいなフォーマットですが、とにかくリスベット演じたルーニー・マーラが魅力的すぎて、ミカエル役のダニエル・クレイグや、「犯人は誰?」的なミステリー部分をぶっとばす勢いでした。個人的には好みのど真ん中なのでハァハァしながら観てました(変態)。
これもパンフレットに書いてあったのですが、原作のリスベットは同じくスウェーデンの国民的児童文学『長くつ下のピッピ』のピッピをモチーフにしていたそうです。ウチの娘もピッピが大好きでスウェーデン版映画と、アメリカで作られたリメイク版の双方をよく観てました。アメリカでリメイクされた点まで同じなのが興味深いです。
ピッピは子供でありながら一人暮らしをしているやせっぽちだけど怪力の女の子で、学校にも通わず自由人的な生活を送っていることから、村の保守的な大人たちや財産を狙う泥棒といった理不尽な敵を相手にたった1人で戦います。ピッピの言動や行動は確かにエキセントリックですが、小説や映画を通して見ることで、自分勝手な常識を押しつける大人たちの方に問題があることが見えて来ます。リスベットは大人になっても社会や世間と戦い続けるピッピなのです。
それとは別にリスベットを見て、『攻殻機動隊』の草薙素子も連想しました。法律を超えた汚れ仕事も率先して行う凄腕ハッカーでありながら、深い孤独を抱えており、義体化とボディピアスやタトゥーという違いはあれど自身の肉体と精神の間でアイデンティティを模索する様など、共通した部分はあると思います。
また他人の顔色を伺ったり空気を読む様な行動が苦手で、情報収集等に偏執的ともいえる集中力を発揮することからアスペルガー症候群であることも想起させます。本作のみではリスベットの過去はほとんど触れられませんが、幼い頃から暴力や差別等かなり過酷な人生を生きてきたことは間違いなく、そのような呪縛を背負った彼女の活躍に我々は感動させられるのだと思います。
後半、猟奇殺人は聖書を元にした見立て殺人ということが判明し、デビッド・フィンチャーの『セブン』や金田一耕助シリーズを彷彿とさせますが、この展開はさすがに新鮮味に欠けるものがありました。とはいえ、本作では事件が解決して一件落着となってからのリスベットの行動に重きを置かれているようで、単純なミステリーというよりも、ツンデレ(ヤンデレ?)キャラと化したリスベットたんの心情を丁寧に描いていたので、せつなくもあり楽しめました。
オープニングの『移民の歌』(トレント・レズナーにカレンO姐さん!)からラストまで、158分という長さを感じさせない濃厚な傑作ですのでオススメです。
(オマケ)
リスベットにカスタムされたブライス。かっちょええ!
Da Kawaii Dolls
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