犬肉喰って代理殺人 - 『哀しき獣』

グナム(ハ・ジョンウ)は、中国延辺朝鮮族自治州でタクシー運転手としてまじめに働いている。だが、妻を韓国に出稼ぎに出した際に作った借金はかさみ、頼みの綱の妻からの送金も連絡さえもすでに途絶えてしまっていた。そんなとき、彼は地元を牛耳る犬商人のミョン(キム・ユンソク)から借金清算の代償としてある条件を出されて……。


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ナ・ホンジン監督の前作『チェイサー』が好きだったので、川崎に『哀しき獣』を観に行きました。以下、少しネタバレ含みます。


原題は『THE YELLOW SEA/黄海』。「黄海」とは韓国と中国に挟まれた海域で、これは本作の主人公グナムが「朝鮮族」(韓国系中国人)であることと関係しています。朝鮮族は「中国人とも韓国人とも違う」というどっちつかずの存在でどちらからも蔑まれながら生きており、「黄海」はその象徴となっているようです。


朝鮮族として生まれ多額の借金を抱えるグナムはある誘いにのって代理殺人という一世一代の賭けに出ますが、逆に警察や謎の組織に追われる四面楚歌の絶体絶命な状態に陥ります。あまりにも過酷な現実に前半こそその苦悩がひしひしと伝わってくるのですが、後半までそのテンションが保てなかったように感じました。


原因の1つは多少人間関係が複雑で、グナムと関係ないところで話が進んだり潰し合いが始まること。これがグナムの画策なら面白いのですが、そうではないので緊張感に欠けるところがありました。加えてミョン社長というあまりにも強烈なキャラが大暴れするのですが、キャラとしては十二分に魅力的なもののその存在感が大き過ぎることで主人公の苦悩といったものを吹き飛ばしていて、作品的にはマイナス要素もあったように思えました。


また、荒々しい効果をつけようとアクションシーンのほとんどでカメラを意図的に動かしまくるので、(前方二列目で観たせいもあるけど)何が起きているのかよく分からないことが多かったのも引っかかりました。『チェイサー』ではそんなことなかったんですけどねぇ。


さらに最終的なオチの部分も、私の理解力の乏しさもありますが少し分かりにくくて残念でした(ネットで検索したら同様の感想を持つ人は少なくなかったです)。


※ここからネタバレ
ラストは何事もなかったように妻が帰って来ますが、最低でもこれまで連絡がつかなかった理由等示して欲しかったです。そうしないとその事実に面白みが出ないように思えました。
※ネタバレ終了


前作『チェイサー』も含めた、ここ数年の「韓国バイオレンス映画」の1本としてはそれなりに楽しめましたし、いい顔したおっさんも多数登場しますし、監督の「朝鮮族という存在を知らしめたい」という熱意のようなものも非常に伝わって来ました。しかしその思いが、140分という上映時間も含めて少し空回りしているという印象が強かったです。同じ内容でももっとシンプルにしたらもっと面白かった気がします。


なんか文句ばっかりになりましたが、観て損はない出来ですのでオススメします。


↓こちらにナ・ホンジン監督のインタビューも載ってます。

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