シュレディンガーの猫を救え - 『ミッション:8ミニッツ』

シカゴで乗客が全員死亡する列車爆破事故が起こり、事件を解明すべく政府の極秘ミッションが始動。爆破犠牲者が死亡する8分前の意識に入り込み、犯人を見つけ出すという任務遂行のため、軍のエリート、スティーヴンス(ジェイク・ギレンホール)が選ばれる。事件の真相に迫るため何度も8分間の任務を繰り返すたび、彼の中である疑惑が膨らんでいく。


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横浜で『ミッション:8ミニッツ』を観ました。ダンカン・ジョーンズ監督の前作『月に囚われた男』も非常にいい作品でしたが、本作も負けず劣らず面白かったです。直接的なネタバレはしてませんが、できれば事前情報を入れずに鑑賞される事をオススメします。


映画の中で「量子力学」という言葉が登場します。とりあえずググってみると、

従来の古典力学では説明できない素粒子・原子・分子などの微視的な系に適用される力学。決定論的な古典力学と違い確率論的な理論である。日常的生活における現象は古典力学に従うものばかりであり、自然に対する我々の直感はそういった古典力学的現象の経験によって形成されている。そのため、量子力学の世界における現象はしばしば我々の直感*1に反し、難解さ不思議さを生む。

量子力学とは - はてなキーワード


ハイ、よく分かりません。とりあえず、素粒子とか原子みたいに目に見えない小さなモノの動きを正確に把握することはできない、という概念を含んだ物理学のことを「量子力学」というようです(細かなつっこみは受けつけません)。


この「量子力学」を説明するのに、よく登場する「シュレディンガーの猫」という思考実験があります。

まず、蓋のある箱を用意して、この中に猫を一匹入れる。箱の中には猫の他に、放射性物質ラジウムを一定量と、ガイガーカウンターを1台、青酸ガスの発生装置を1台入れておく。もし、箱の中にあるラジウムがアルファ粒子を出すと、これをガイガーカウンターが感知して、その先についた青酸ガスの発生装置が作動し、青酸ガスを吸った猫は死ぬ。しかし、ラジウムからアルファ粒子が出なければ、青酸ガスの発生装置は作動せず、猫は生き残る。一定時間経過後、果たして猫は生きているか死んでいるか。

シュレーディンガーの猫 - Wikipedia


イメージはこんな感じ


またまたざっくり言うと、箱の中にいる猫が生きているか死んでいるかは分からず「どちらの状態もありえる」ということのようです。何か当たり前のようにも思えますが、従来の物理学にとってはこの「どちらの状態もありえる」という考えは矛盾をはらんでいるそうで、非常にやっかいな概念のようです。


で、ようやく映画の話に戻ります。本作をこの「シュレディンガーの猫」に置き換えると、とある手段でこの箱に入った主人公が、本来の目的である「猫はどうやって死んだか?」の調査とは別に、「猫を救おうとした」話といえると思います。第三者的立場の科学者にとってはいずれ猫が死ぬ事になるのは決定事項であり、その生死自体にあまり意味がありませんが、猫と彼自身にとっては大問題なのです。


さらに「決定論的な古典力学」を「既に定まった運命」と解釈し、量子力学における「定まらない動きをする素粒子や原子」を「意志を持った個人」と解釈すると、個人の意志によって世界を変えることができる、既に決まった運命とは別の世界に行けるという可能性が見えてきます。


藤子F不二雄のSF短編『ドジ田ドジ郎の幸運』では、世の中の運や偶然を司るキャラクターが登場し、通常バラバラに動く分子を一定方向に動かすことで、モノを動かすという話がでてきます。分子が一定方向に動くなんて通常はありえないし、仮に動いたとしてモノが動くかという気がしなくもないですが、可能性はゼロではないのです。


↓『21エモン』のゴンスケがゲスト出演してる


また身体的問題を抱えた主人公が科学技術により別の肉体を得て、その状態で行動する事によって思考まで変わっていくというのは、『アバター』を彷彿とさせますし、別の世界への移動というのは、ダンカン・ジョーンズのフェイバリットらしい『攻殻機動隊』の影響もあるように思います。


物理とか全然分からないくせに知ったかぶりして色々書いたので、非常に難解な映画と思われたかもしれませんが、根っこの部分は「自らの意志で運命(体制ともいえるかも)に逆らえ」という『月に囚われた男』と同様のテーマがあると思います。とにかく超オススメです。