デヴィッド・リンチのアルバム試聴会＆トークショーに行きました

渋谷で行われた「デヴィッド・リンチ『クレイジー・クラウン・タイム』発売記念プレミアム先行試聴会＆トークショー」に行ってきました。「えっ、デヴィッド・リンチのアルバム？」と思った方も多いと思いますが、今回のアルバムではリンチ自ら作曲し、ギターを弾き、何とほぼ全曲で歌まで歌っています。

↓滝本誠さんによると「リンチ本人の手」らしい

とはいえ、映画監督であるリンチが音楽を作るなんて何となく唐突な感じがしますが、実はここ数年その予兆と言える動きがあったので簡単にまとめてみたいと思います。

リンチは純粋な音楽家ではないものの元々音楽の素質はあったようで、処女作『イレイザーヘッド』でラジエーター・ガールが歌う『In Heaven』をピーター・アイヴァースと一緒に共作していました。この印象的な曲はその後ピクシーズ等がカバーしています。

『In Heaven』（『イレイザーヘッド』より）

そして、現時点で長編最新作にあたる『インランド・エンパイア』（2006年）ではサントラに自身で作曲し歌った曲が2曲（『Ghost of Love』『Walking In the Sky』）収録されています。ここでのボーカルは電子処理を加えられていてあまり原型がとどめられていませんが、今回のアルバムでも同じようにボーカルは電子処理が施されています。

『Ghost of Love』（David Lynch）

その後、Mobyのアルバム『Wait For Me』が「デヴィッド・リンチのスピーチにインスパイアされ作られた」ことから二人に交流が生まれ、リンチが『Shot in the Back of the Head』のミュージック・ビデオを監督しています。

『Shot in the Back of the Head』（Moby）

このアルバムではミュージシャンとしての参加はありませんでしたが、後に二人でスタジオに入ってセッションをする映像が公開されました。

さらに、Danger MouseとSparklehorseと共に、Dark Night of the Soulというユニットを組んで、作品を発表。当初はビジュアル面のみの参加と思われましたが、実際にはここでも歌を披露しています。

『Dark Night Of The Soul』（Danger Mouse & Sparklehorse）

ちなみにこのアルバムは、レコード会社と揉めて発売中止になり、その腹いせ（？）に「空のCD-R」とブックレットをセット発売しました。これは購入者はネットで音源を落としてこのディスクに書き込め（！）という意図があったと言われています。後に正式にCDとして発売されました。

そうした様々な経緯を経て、自身の名義で初のシングル『Good Day Today』『I Know』が今年始めに発売されました。前者はMobyを彷彿とさせる軽快なダンス・ミュージック（！）で、後者はベースを抜いたブリストル・サウンドのようなダークで重い曲で、どちらもかっちょいいです。もちろん歌も歌ってます。

『Good Day Today』（David Lynch）（微グロ注意）

『I Know』（David Lynch）

※2曲ともミュージック・ビデオの監督はリンチではありません。

この2曲を含めた全14曲（+日本盤はボートラ1曲）の試聴（ただし1曲2分のみ）した感想ですが、まず1曲目の『Pinky's Dream』はヤー・ヤー・ヤーズのカレンO姐さんがボーカルで参加していて盛り上がる曲でした。後半はややダークな雰囲気が強くなりますが、全体的にトリップ・ホップとブルースとダンス・ミュージックの融合という感じで非常に気に入りました。

滝本誠さん、川勝正幸さん、湯山玲子さんらによるトークショーも楽しかったです。滝本さんがリンチの家に行った際に撮影したフィルムや一緒に撮った写真がことごとく消えてしまう話や、リンチが発売しているコーヒーが不味いという話が、滝本さんのジジイキャラ（失礼！）と相まってやたらおかしかったです。

リンチ・ファンとしては、音楽活動もいいけど新作映画はどうなの？という気がしなくもないですが、とりあえずこのアルバムを聴きながら気長に待ちたいと思います。

アルバム『クレイジー・クラウン・タイム』の予告映像。リンチがギター弾いてます。