「イヤな死に方」見本市 - 『ドリーム・ホーム』
香港の象徴的な景観として知られる美しいビクトリア・ハーバーが見える湾岸エリアにある高級高層マンション「ビクトリアNo.1」。ある晩何者かが管理人室に忍び込み、居眠り中の警備員を絞殺する。ほどなくマンションの住民に対しても血の惨劇が繰り返されるが、その犯人の正体は金融機関に勤める普通の OL、チェン(ジョシー・ホー)だった。
渋谷に『ドリーム・ホーム』を観に行きました。上映後に行われたヨシキ所長、柳下さん、田野辺さんによるトークイベントもあわせて観覧。
前日に観た『レイキャヴィク・ホエール・ウォッチング・マサカー』が直接的な残酷描写がほとんどなかったことでやや欲求不満状態だったのですが、本作のブレーキが壊れたような残酷描写のオンパレードにそんな不満は軽くぶっ飛んでしまいました。ストレス解消には残酷が一番ですね!
前情報まったく仕入れずに観たので、てっきりこの彼女が謎の殺人鬼に襲われるのかと思ってたら、映画冒頭で彼女自身が加害者であることが判明し、まずびっくり。ただのOLである彼女がマンション住人たちを次々と無慈悲に殺していく怒濤の展開に言葉を失いました。一体なぜ?という疑問はその殺戮と平行して徐々に明かされていくのですが、この構成が非常に巧かった!おかげでスプラッター映画にありがちな一本調子な展開にならず、最後まで引込まれるように観ることができました。
話題の残酷描写もオリジナリティがあって素晴らしかった。今回は加害者も被害者もヤクザや殺し屋みたいな「殺しのプロ」ではなくただの一般人で、使用する道具も拳銃などでなく包丁や結束バンド(!)といった身近にあるものばかり。拳銃撃ってハイおしまい、なんて単純な殺しはなく、一般人なりに工夫した色んな方法で殺そうとするのがまず新鮮。そして一般人ゆえに手際が悪いのでなかなか思ったようにいかず、次々と予期しない訪問者がやってくるといった展開が延々続くので、スリリングでリアリティもありとても良かったです。
また、多くの被害者がなかなか死なない(死ねない)というのも本作のポイントで、「どうせ殺すんだったらきっちりトドメさしてあげて!」と何度も思いました。飲み会の席で「どんな死に方が1番イヤか?」なんて話をすることがありますが、全てそんな死に方ばかりでした...。イヤ過ぎる!
一般的には加害者は悪人であり強者であって、被害者は善人で弱者なわけですが、本作では主人公が殺人を犯す理由が最後まで分からないので、加害者にも関わらず彼女がどういう人物なのかはっきりしないまま進むのも面白かったです。そしてその謎が解けた後の、最後の最後にさらっと描かれた皮肉な展開もスタイリッシュで良かった。
香港の過酷な住宅事情あっての映画ではありますが、日本でこのような事件が起きても不思議ではないなと感じました。残酷描写に耐性さえあればオススメ!
(その他)
・血まみれで熱演したジョシーさんは香港のカジノ王の娘で、本作のプロデューサーでもあるそうです。スゴいな。
・念のために言うと笑えるシーンもたくさんありますよ。「メロイックサイン」とか爆笑でした。
・トークイベントは田野辺さんの絶叫で幕を上げて大変楽しかったです。内容はこちらの記事に詳しいですがネタバレも含むので未見の方は注意。