偽善か新しいモンド映画か?-『オーシャンズ』

北極海から南極海サンゴ礁に彩られる美しい海に、冷たい氷で覆われた海など、世界各地の海にいる生物たち。猛スピードで泳ぎ、ジャンプするイルカ、ゆっくりと海の底へと沈んでいくマンタ。光のない大気圧1,100倍の海底であっても、そこで生きる命は存在している。


オフィシャルサイト



「子どもは500円キャンペーン」に釣られて、娘と『オーシャンズ』を観に行きました。前半は美しく壮大な映像に楽しめましたが、後半の「フカヒレ漁」のシーンで?となり、エンドクレジット後にさらっとでてきた「この映画では動物を傷つけていません。一部の映像を加工しています」といった内容のテロップにさらに???に。


この件に関しては見事にまとめられているこちらを参照下さい。
これは偽善だ!(映画『オーシャンズ』を観て) - 俺の邪悪なメモ


ということで「ドキュメンタリーと思ったらヤラセだった」わけなんですが、ドキュメンタリーでヤラセといえばやっぱヤコペッティ先生の『世界残酷物語』なわけですよ。


オープニングで入るテロップ。

この映画の中のシーンはすべて真実である
目を背けたくなるようなシーンがあったとしても
この地球上で現実に起こったことである
ジャーナリストの使命は真実をオブラートに包むことではなく
客観的に伝えることだと我々は信じている


「お前が言うなぁ!」と思わなくもないけど、言ってることは至極正論。


一応書いておくと、モンド映画に対して「ヤラセだ!」と非難するのは、「タネもしかけもありませんよー」とか「ハンドパワーです」とか言う手品師に対して、「うそつけ!」と問いつめるくらい無粋な行為であり、「世界の奇妙でいかがわしい映像が見たい」という観客の欲求に見事に答えた映画ジャンルだと思ってます。


で、『世界残酷物語』。こちらにも『オーシャンズ』で問題になった「フカヒレ漁」に関するネタがあるのをご存知か?


サメを穫って生計を立ててる貧しい村。片手をサメに喰われた漁師がフカヒレを干してるところ。


「12歳の子どもがサメに殺された」ことでサメに復讐する村人たち。

漁師たちはサメを捕らえるのをやめ
喉の中に毒ウニを突き刺して海に戻します
死ぬまで1週間は苦しむはずです


ひでぇw。『オーシャンズ』で描かれるフカヒレ漁より百倍ひでぇよ。


そんなわけで「ヤラセドキュメンタリー」である『オーシャンズ』は新しいモンド映画だと言えなくはない。だけど、大きな違いは作り手側が「自己の正義を振りかざしている」か否かだ。ヤコペッティはそれがどんなに野蛮で理解しがたい行いや習慣であったとしても、否定することなくあくまでも見せ物として描いている。この映画の中では牛の首を切り落とす祭りも、砂漠で死んでいくウミガメも、ドイツの酔っぱらいも皆並列なのだ。そこが素晴らしい。


どちらをどう思うかは観た人の判断によるけど、個人的には『世界残酷物語』の方が圧倒的に面白い。音楽だって格段にいいしね。


ちなみに一緒に行った娘さんは途中で退屈してしまい、しかも後半ずっとしゃっくりが止まらなくなり映画どころではなかった模様です。


(その他)
モンド映画って世界中のドープな映像を探し出しモンタージュして、独自の編集でナレーションをかぶせるというのが、実にHIP-HOP的だとか思った。
・ドキュメンタリーに主張があってもそれ自体が悪いとは思わない。結果面白ければいいんじゃなーい。



追記)
タイムリーにこんなニュースが。

クジラなど海洋生物を描き人気を博しているフランス映画「オーシャンズ」の最後に、環境保護を標榜(ひょうぼう)しながら暴力的な調査捕鯨妨害を繰り返す米団体「シー・シェパード」(SS)の名前が賛同団体の一つとして紹介されることが、鑑賞客の間で論議を呼んでいる。保護者同伴の子供料金が500円と格安に設定されていることから家族連れの鑑賞客も多いが、「子供に見せてもいいのか」という声も上がり始めている。

オーシャンズはクジラやサメ、アシカ類など海洋生物の姿を描いたドキュメンタリータッチの映画で

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100225-00000568-san-ent


「ドキュメンタリータッチの映画」になってるw。