子どもだまし映画-『よなよなペンギン』

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少女ココは大好きだった亡き父親の言葉を信じ、いつか空を飛べることを夢見て、ペンギンの着ぐるみ姿で夜の街を歩いている。ある晩、彼女が道を歩いていると、ペンギンのカプセルが落ちていて、組み立てると動き出し、そのペンギンはペンギングッズが満載のペンギンストアへ招待してくれる。そこにはチャリーというゴブリンの少年がいて、ココに自分の住む世界に来てほしいと懇願する。


娘のリクエストで『よなよなペンギン』(以下『よなペン』)観ました。予告編を見る限りあまりピンと来なかったけど、『くもりときどきミートボール』みたいに意外な傑作に出会えることもあるのでとりあえず行ってみましたが、超絶につまらなくて久々に腹が立ちました。以下、何が悪いかをダラダラ書きます。


1)異世界の凡庸さ
『よなペン』は『不思議な国のアリス』をはじめとした『モンスターズ・インク』『ホッタラケの島』『コラライン』と同じ「少女が異世界に行って騒動に巻き込まれる話」だ。どの話であっても「主人公の住む世界」と「異世界」の違いがポイントなハズなのに、『よなペン』にはそれがない。そもそも主人公ココの住む街がヨーロッパっぽい雰囲気なのに日本の古い映画のポスターが貼ってあり、さらに街の中心にある噴水には巨大な七福神の像があるという十分に異世界なのだ。なのでその後に出て来る「ゴブリンの住む世界」との違いがほとんど感じられない。これなら別に異世界じゃなくて隣の街でもいいじゃん。


2)テーマである「飛ぶ」ことの意味が不明瞭
ココは亡き父の言葉「父さんはペンギンと空を飛んだことがある」を頑に信じているんだけど、それとココ自身がペンギンのコートを着て空を飛ぼうとする行為とがまったく結びつかない。てっきり最後には父のこの言葉の本当の意味とか出て来ると思ったら何もなかった(父の言葉は単なるホラ話なの?)。ラスト、当然のようにココは空を飛ぶけれど、ここにもまったく必然性はない。別にココが空を飛ばなくても(なぜか助けに来た)×××がやってくれたハズ。何でこのタイミングでココが飛ばなきゃなんないのかさっぱり分からん。


3)異世界への連れ出し方の謎
ゴブリンの子であるチャリーはココを「勇者」と勘違いして自分達の世界に連れて行く。フツーに考えれば、ココに事情を説明するか、もしくは強引に連れて行こうとするだろうけど、なぜか自身を壊れたオモチャに偽装し、それをココに拾わせた後に「ペンギンストア」に招待し、さらに店を散々案内した挙げ句にようやく連れて行く。そんな回りくどいことする意味ないじゃんか。好意的に考えればこの「ペンギンストア」は「ペンギン好きなココ」を連れ出す手段のような気もするけど、だからってな〜。


4)中途半端なキャラクター達
重要キャラであるザミーがなぜブッカ・ブーの手下になったのかよく分からない。そもそもザミーの×××が目的ならば、自由に行動なんかさせずに牢屋に閉じ込めておけばいいのに。同じく重要キャラで不思議な力でココを助ける「じい」。その正体は×××なんだけど、彼が何をきっかけに×××をやめたのか等はまったく説明なし。どのキャラもキャラ立ち無さ過ぎるよ。


5)動きが死んでるアニメ
CGについてはまったく詳しくはないんだけど、Pixarの最初期の短編よりひどかった。滑らかな動きではあるけど不自然で躍動感がまったく感じられないし、何よりキャラの「意志」が感じられない。私はPixarヲタではあるけど、常にPixar以外の会社がPixarとは違う独特のCG作品を作ってくれることを期待してる。そんな中で監督のこの発言。

確かにピクサーは世界を制覇しているので、同じことをやって適うわけがない。ピクサーの技術を模倣して済ませばいいというものでもない。試行錯誤を経て、日本人的なものを作ろうということになりました。ピクサー作品のキャラクターの動きは、あくまでアメリカ的な発想で、そこには日本の2Dアニメーションが持っている独特の間や情感がない。それは確実にピクサーとは違うし、これなら面白いものができると思いましたね。

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その「間」や「情感」がないって言ってんだよ!Pixar作品に情感がないなんてよく言えるな?これなら模倣する方がまだマシだよ!


6)合作のデメリット?
『よなペン』は日本、フランス、タイの合作らしい。そのせいか、監督が「このシーンはこういう動きにしたい」といった考え等が各国の製作サイドにきちんと伝わっていないような気がする。結果、それぞれの勝手な意志で作られたパーツを集めて作ったプラモデルみたいな、全体的にチグハグな印象を与える作品になったように思えるがどうか?


思いつくままに色々書いた。当の娘はそれなりに面白かったようだけど、私には御都合主義な「子どもだまし」な映画にしか見えなかった。テレビアニメとかならいざ知らず、映画で「子どもだまし」なモノって極力子どもに見せたくないんだけどな。


(その他)
・タイトル通りに少女は夜中に街を徘徊するんだけど、誰か止めろよ!
・『よなペン』のキャッチコピーは「少女の夢は、空を飛ぶこと」なんだけど、それはほとんどの子どもの夢だよ!
・『よなペン』がゼロ年代最後に観に行った映画になるのがイヤだったので、慌てて『アンヴィル』を観に行って泣きました。