24時間テレビと「マーターズ」


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1970年代のフランス、何者かに拉致監禁され、長期にわたり虐待を受け続けた少女リュシー(ジェシー・パム)は自力で逃げ出し、傷だらけの状態で発見さ れる。養護施設に収容された彼女は心を閉ざしていたが、同年代の少女アンナ(エリカ・スコット)にだけは心を許していた。15年後、リュシー(ミレーヌ・ ジャンパノイ)は自分を監禁した相手を発見し、猟銃を手に犯人宅を訪れる。


改めてちゃんとしたレビュー。


「ショック! 残酷! 切株映画の逆襲」に載ってたパスカル・ロジェ監督のインタビューを読んだあたりから、自分の中で期待値がグングン上がっていた本作。辛抱溜まらず珍しく公開初日に観に行きました(会場は満員で立ち見が出ていた)。結論から言うと大傑作。超怖かったし、観終わった後にも色々と考えさせられることが多かったです。


本作の特長の1つが、ジャンル分けが難しいこと。「『トーチャー・ポルノ』じゃないの?」と言われそうだけど、実際はもっと複雑。特に前半は「誰がリュシーを虐待したのか?」「リュシーが復讐した家族は本当に加害者なのか?」という謎が多くてサスペンスタッチで進む。途中から「モンスター」的なキャラも登場しつつ、後半ある団体の登場で映画の雰囲気ががらっと変わる。ここから哲学的というか「神とは?」「人間とは?」「死とは?」といったかなり突き抜けたテーマまで出て来る大判振る舞い。さらにオープニングとエンディングが象徴するように、実はリュシーとアンナの「愛の物語」ともいえるので少なくとも単純なホラーではない。


ここからネタバレ入ります。





キーとなるのはタイトルでもある「Martyr」。こちらは「殉教者」「犠牲者」「証人」といった意味があるらしい。

殉教(じゅんきょう)とは自らの信仰のために命を失ったとみなされる死のこと。キリスト教の歴史でよく用いられる言葉であるが、キリスト教以外の宗教でも見られ、宗教的迫害において命を奪われた場合や、棄教を強制され、それに応じないで死を選ぶ場合など、様々な形の殉教がある。
(中略)
キリスト教教会は、殉教者を、神と人間を仲介できる存在、聖人と位置づけて祈りの対象とした。

殉教 - Wikipedia


後半謎の秘密結社が登場するのだが、彼らの目的が凄い。


「ねー死後の世界って興味ないー?」
「ある!ある!スピリチュアルいいよね!だけどどうやれば分かるかなー?」
「なんかさー、殉教者って神と交信できるって言うじゃん。だったら拉致って拷問繰り返して無理矢理殉教者作っちゃってそいつに聞けば良くね?」
「ちょwwおまww、天才wwwww」


というやり取りがされたのかは知らないが(ねーよ)、とにかく彼らは拷問することにしたのだった。いい迷惑だよ、まったく。


宗教的な意味合いについては正直よく分からんが、例えば隠れキリシタンがお上に見つかって「棄教すれば助けてやる」と言われながら、自らの意志でそれを拒み「死」を選ぶ場合は確かに「殉教」と思うんだけど、無理矢理拉致って拷問しても「殉教」になるんですかね?それってたまたま映画観た日と同じ日にやってた「24時間テレビ」のマラソン(まったく必然性のない集団リンチとしか思えない苦行)みたいじゃない?「これで感動しろって言われても...」というなんかモヤモヤした気分になりましたよ。


とはいえ「究極の痛みを与え続けることで人はどこに辿り着くのか?」というのは(大きな声では言えないが)実は興味はある。本作でも大々的にフューチャーされた有名な凌遅刑の写真(ジョン・ゾーンのCDジャケにも使用)を見て「この人はこの時に何を考えていたのかなぁ?」と考えを巡らしたこともあるし、ある意味同じテーマである「ヘルレイザー」もすごく好きだ(だからってあんなキチガイ達と一緒にされたくはないけど...)。今にして思えば「ヘルレイザー」のリメイクにロジェ監督が指名されたというのは素晴らしくナイスチョイスだったのに、流れてしまって残念。


あと本作の出来に貢献してるのが特殊メイクのブノワ・レタン。特に中盤登場し観客のどよーんのツボを押しまくる「落ち武者ガール」(トップ写真)のインパクトはピンヘッド兄さんに負けないくらい強烈。購入したパンフでも女優2人が「特殊メイクは大変だったけど、ブノワが冗談を言って苦痛を紛らわしてくれたので乗り切れた」といった賛辞を送っているナイス・ガイ。そのパンフには書いてなかったけど、実は彼は映画完成後に自殺したらしい。

ブノワが撮影中に言ってたんだ。この映画で『ファンゴリア』の表紙を飾れたら最高だ。もしそれが叶ったら特殊メイクの仕事を辞めても悔いはない、ってね。実は次号の『ファンゴリア』は『マーターズ』が表紙なんだ。ブノワに見せられないのが本当に残念だよ。
「ショック! 残酷! 切株映画の逆襲」より


何が原因かは知らないけど、惜しい人を無くしたもんだ。グッジョブだったよ、ブノワ!


モヤモヤしたとは書いたけど、監督の妥協なき硬派な演出や、色んな要素を盛り込みながらもブレのない構成等諸々秀逸なので、ホラーが苦手な人にも実は観て欲しい傑作。だけど責任は負えません。各自それなりの覚悟でご覧下さい。



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ショック! 残酷! 切株映画の逆襲

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