21世紀の「悪の華」-「ダークナイト」


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悪のはびこるゴッサムシティを舞台に、ジム警部補(ゲイリー・オールドマン)やハーベイ・デント地方検事(アーロン・エッカート)の協力のもと、バットマンクリスチャン・ベイル)は街で起こる犯罪撲滅の成果を上げつつあった。だが、ジョーカーと名乗る謎の犯罪者の台頭により、街は再び混乱と狂気に包まれていく。最強の敵を前に、バットマンはあらゆるハイテク技術を駆使しながら、信じるものすべてと戦わざるを得なくなっていく。


とんでもない映画だった。

今年の1位は(未見の「WALL・E」をのぞけば)、「ミスト」で決まりと思っていたら突然「ダークナイト」がやってきた。いや、正確に言えば「ジョーカー」がやってきた。


前作「バットマン・ビギンズ」はつい先日Blu-rayをレンタルして見たばかりなんだけど、本編にまったく面白いところがなくてがっかり。特典映像に「ダークナイト」の冒頭6分の「ジョーカーの銀行強盗」シークエンスがまるまる収録されていたので、何となく見たらひっくり返った。

コミックでもファンタジーでもない現実世界のゴッサム・シティの描写にも、まったくスキのないハードな演出にも驚いたが、やっぱりジョーカーの悪の魅力に打ちのめされた。「カリスマ」という言葉がここまで似合う悪役もいないだろう。
(以下、ネタバレ)



ティム・バートン版「ジョーカー」や、「ダークナイト」に登場した「トゥー・フェイス」のように「悪人(怪人)」になるに至った悲しい過去とか、それ相当の理由や原因があるのかと思ったら「ダークナイト」のジョーカーはまったくそれがない「純粋悪」として描かれる(少なくとも過去は語られない)。警察での取り調べで「指紋やDNAの記録がない」ことからも過去に犯罪に絡んでいない可能性も高い。案外ごく普通の会社員とかだったのかもしれない。

強いて言えば「ジョーカー」が登場した原因は(皮肉なことに)「バットマン」が登場したことだ。類は友を呼ぶ。狂気はさらなる狂気を呼ぶ。


仕事でトラブルがおきた場合等のテクニックとして、こちらから指示するのではなく「相手に選択肢を与え判断させる」というのがある。相手にイニシアチブを与えることで優越感を持たせておきながら、その結果に関しては文句を言わせないという考えようによってはズルい方法だけど、ジョーカーもそれと同じことをする。「市民の命かバットマンの正体か?」「ハービーの命かレイチェルの命か?」。選択するのはバットマンや警察や市民だ。結果がどうなっても誰かが傷つきそして後悔することになる。同じような選択をさせるシーンが「スパイダーマン」にもあったと思うが、「スパイダーマンの活躍でどちらも助ける」みたいな「ずるい」オチだった。しかし「ダークナイト」ではここがしっかりと描かれている。


ジョニー・ロットンや「時計仕掛けのオレンジ」のアレックスを参考にした(!)というジョーカーのキャラクター描写がとにかく強烈だし、ジョーカーの影に隠れてるとはいえ「トゥー・フェイス」のメイクのグロさも最高。「バットマン・ビギンズ」では悪役に魅力がまったくなかったが、今回はむしろバットマンの存在が目立たない程悪役が魅力的。


12mのトレーラーをひっくり返したり、病院の爆破という派手なアクションシーンもCGではなく実際にやった(えぇっ?)らしく、CG慣れした観客を驚かさせるはず。この「病院爆破」で、起爆スイッチをガチャガチャ押すジョーカー(看護婦コスプレ)のシーンだけとっても緊張感とコミカルさが融合した驚愕の出来で、ここだけでも入場料のモトは取れる。


昨今映画のレイティングに関して「何でこれがR-15やPG-12なの?」みたいに驚く事が多かったけど、今回は逆。「レイティング」の是非は別にして、この映画がレイティングなしっておかしいだろ?オレだったら小学生には見せない(トゥーフェイスのビジュアルだけでも泣き出すこと必至)。見た目の問題ではなく、全編「悪の魅力」に満ち溢れているのがヤバすぎる。イギリスでは「時計仕掛けのオレンジ」が長期に渡って上映禁止になったのは有名だけど、個人的には同等の衝撃があった。問答無用にオススメ。


バットマン ビギンズ [Blu-ray]

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