ドクター・スースの世界「ぞうのホートンひとだすけ」

ぞうのホートンひとだすけ (ドクター・スースの絵本)

ぞうのホートンひとだすけ (ドクター・スースの絵本)

水浴びをしていたぞうのホートンは、どこからか聞こえる小さい小さい声を耳にしました。どうやら、誰かが助けをもとめている声のようです。けれど、ジャングルの動物たちは、ホートンの話を信じようとはせず…。


7/12から映画「ホートン ふしぎな世界のダレダーレ(原題:Dr.Seuss' Horton Hears a Who!)」が公開されます。映画の感想はまた改めてということで、今回は原作本と作者のドクター・スースの話。


ホートン ふしぎな世界のダレダーレ-オフィシャルサイト


作者のドクター・スースは欧米では知らない人はいないと言われる絵本作家(「アンパンマン」のやなせたかしみたいなモンか)でジム・キャリー主演で実写映画化された「グリンチ」はその年のUS興行収入で1位を記録し、続く「The Cat in the Hat(邦題「ハットしてキャット」)」はマイク・マイヤーズダコタ・ファニングが主演してこちらもヒットしました。ただし評判はあまりよくなかったようで、ラジー賞の「コンセプトが全てで中身空っぽ賞」を受賞しています(第24回ゴールデンラズベリー賞)。


日本では「グリンチ」は一応劇場公開されたけどそんなに話題にはならず、「ハットしてキャット」に至っては一旦劇場公開決定してオフィシャルサイトが作られただけでなく、某アパレル・メーカーとのコラボ・グッズまで発売されていたのに、諸般の事情で公開が見送られDVDスルーとなりました(実はそれなりに面白いんだけどね)。ということで、ドクター・スース原作というだけでは日本では話題にならないのが実情。


では、なぜドクター・スースが欧米では絶大な人気があるのか?

彼は40代になってから絵本を書き始めました。代表作品の「Cat in the hat」シリーズは、彼が「学校教育における初等向き読書本のつまらなさとおろかさ。」という記事を読んだためでした。その記事から彼はつまらないと指摘された223の単語を面白く、ひょうきんに書き直し、初等向きの読書本をとても楽しいものにしました。

絵本作家 ドクター・スース 音のルールを知って絵本を読む! [子供の英語教育] All About


ドクター・スースの絵本のストーリーはナンセンスだったり、風刺だったり、心温まる話だったりと色々あるけど、それ自体は極めて凡庸。しかし子どもが楽しんで読めるように言葉全てが韻が踏まれている。例えば「Fox in socks」という絵本の中の一説。

Knox in box.
Fox in socks.
Knox on fox
in socks in boxs.
(Knoxはキャラクターの名前)

O.C. Kitchen: Tounge Twisterに挑戦!☆Dr. Seussの絵本

Fox in Socks: 50th Anniversay Edition (Beginner Books(R))

Fox in Socks: 50th Anniversay Edition (Beginner Books(R))


この絵本では韻を踏んだ早口言葉がたくさんでてきます。このリズムで子供達は英語を覚えるらしい。いわばHIP-HOPのライムの元祖。ウチには絵本を朗読したオーディオブックのCDもあるので、聴いてみたらリズム感があってとても楽しかった。

日本のiTunesStoreでもスースのオーディオブックはたくさん売ってる。¥300からあるのでオススメ。
iTunesStore-オーディオブック(Dr.Seuss)

こういう魅力が、日本語訳した絵本では表現が難しいので日本での知名度が低い要因なんでしょうね。もったいない。


スースの人気の高さを実感したのがフロリダのユニバーサル・スタジオ内にある「Seuss Landing」というドクター・スースの絵本をテーマにした遊園地。

Universal Studio Orlando

↓エントランス


↓Cat in the Hatがお出迎え


↓後述する「Green Eggs and Ham」では本物の「緑の目玉焼き」が食べれる


9年程前に訪問したら思っていたより広い施設で凄く楽しかった。基本的には子ども向けのアトラクションばかりだけど、細かな小道具(ジュースの入れ物とか)までスースの世界(建物等に直線が存在しない等)を忠実に表現していてびっくり。日本ではほとんど入手不可能なスース・グッズを山ほど買い込んで帰ってきました。


話は「ホートン〜」に戻る。

象のホートンは偶然ほこりの中に小さな小さな生き物が住んでいることを知る。彼らを救おうと孤軍奮闘するホートンだが、ジャングルの仲間は彼の話を信用せずに、ホートンの邪魔ばかりをする。これはドクター・スースの絵本に度々登場する「考えの異なる者を受け入れよう」というテーマが根本にある。


別の絵本「Green Eggs and Ham」では、「Sam-I-am」というキャラクターが、「緑色の目玉焼きとハム」を執拗に勧める。それをずっと拒否し続けてきた男だったが、あまりのしつこさに負けてとうとうそれを食べる。するととてもおいしかった!というシンプル極まりないお話。この「緑の目玉焼き」は肌の色の違いや宗教の違いといったものの暗喩であり、そういった外観の違いや異文化やを受け入れてみようというメッセージがある。

Green Eggs and Ham (Beginner Books(R))

Green Eggs and Ham (Beginner Books(R))

映画「I am Sam」にもこの絵本は登場して、タイトルの元ネタになっている。ここではもちろんGreen Eggsとは障害者のコト。

I am Sam/アイ・アム・サム [DVD]

I am Sam/アイ・アム・サム [DVD]


ホートンに助けを求める小さな小さな生き物。絵本では彼らは「Who」と名乗り、彼らの住む街の名前は「Who-Ville」(日本の絵本では「だれそれ村」で、映画では「ダレダーレの国」)。「Who-Ville」というのは、「グリンチ」の舞台の街の名前でもある。また映画でグリンチを演じたジム・キャリーは「ホートン〜」ではホートンの声として出演をしている。


一説によると、この「小さなWho」という生き物は日本人がモデルらしい。

1950年代当時、アメリカでは日本の文化がブームになっていた。Dr.スースも日本に興味を持った一人で、友人から同志社女子大学英文学科の教授であった中村貢を紹介され、1953年の春に来日。Dr.スースは中村と出会い、日本のさまざまな文化に触れる中で、彼独自の感性を磨いていった。Dr.スースは帰国の後「ぞうのホートンひとだすけ」を執筆。ジャングルヌールとダレダーレの国という2つの異なる世界は、まるで遠く離れた日本とアメリカを表しているようで、そこで育まれる友情や信頼、きずなはDr.スースと中村の間に生まれたものであると読み取ることができる。その後、Dr.スースは自身が絵本を執筆するたびに中村のもとへ送り、その友情関係は生涯変わることがなかったそうだ。

http://movie.goo.ne.jp/contents/news/NFCN0014310/index.html

もちろん「小さな生き物の声」を「マイノリティの意見」に置き換える等、色んな解釈が可能。


グリンチ」や「ハットしてキャット」を見て、個人的は「無理に実写にしないでアニメでいいのに」と思ってたので、そういう意味では願いが叶った(別に3Dじゃなくても良かったんだけど)。USでは興行成績1位になったそうなので、結構楽しみにしてます。日本ではヒットは難しいと思うけどがんばって欲しい。「カンフーパンダ」も「ポニョ」も無視して私はまりんと観に行きます。


↓去年出た本。結構な値段なのでまだ買ってない。

ドクター・スースの素顔―世界で愛されるアメリカの絵本作家

ドクター・スースの素顔―世界で愛されるアメリカの絵本作家


(参考)
KAISEI WEB-映画になった「ぞうのホートン」(絵本の「立ち読み」も可能)

映画×ロケンロー備忘録-過保護すぎやしませんか?