「WALL・E」を観る前に観るべき映画その1-「ハロー・ドーリー!」

これから数回に渡って「『WALL・E』を観る前に観るべき映画」というエントリを書きたいと思います。「WALL・E」本編を観ていないのでネタバレできるわけはないのですが、なるべく情報をシャットアウトしてから観たい、という方は読まない方がいいかもしれません。以下、長文。


改めて「WALL・E」について。

西暦2700年。人類はゴミだらけになった地球を捨て、宇宙に逃れた。荒れ果てた地球に残されたのは、“地球型ゴミ処理ロボット”のウォーリーだけだった。700年という気の遠くなるような孤独の中、ウォーリーは小さな身体を使って、どんな時もコツコツとゴミを片付け続けた。いつの日か、誰かと出会えることを信じて…。ある日、そんなひとりぼっちのウォーリーの前に現れた、ピカピカのロボット“イヴ”。美しいイヴに恋をしたウォーリーは、彼女の気を惹くために必死にアピールする。しかし、ウォーリーが見せた“あるもの”を目にした瞬間、イヴは突然動かなくなってしまう。彼女には、地球の運命を左右する “重大な秘密”が、隠されていたのだ…。

WALL・E ウォーリー | goo映画

WALL・Eオフィシャルサイト


まずは「WALL・E」の予告編をご覧下さい。


この中でWALL・Eが「昔の映画」(どうやらVHSらしい)を見るシーンがあります。



これが何という映画なのか当初分からなかったのですが、id:satan666(ヨシキ所長)に「ハロー・ドーリー!」(69年)と教えていただきました(感謝!)。

ディズニー映画ですらないこの映画をストーリーに盛り込むからには何かしらの意図があるのだろうと推測し、未見だった「ハロー・ドーリー!」をレンタル。


ストーリー概要はこちら。

世話好きの未亡人ドーリーは金持ちだが口やかましい男やもめホレスと帽子屋アイリーンの仲を取り持とうと奔走するが、そのうちドーリー自身も彼を好きになってしまい、ついには自分を売り込んでしまう。歌手として、女優として、エンターテイナーとして最高の輝きを見せる、バーブラ・ストライサンド主演で贈る、大ヒットミュージカルの映画化。


この時代のミュージカル映画は個人的にあまり見た事がないので諸々新鮮。146分とかなり長い映画で途中で「Intermission」(休憩)も入ります。

予告編内でWALL・Eが映画を見ながらため息をつく(ような仕草を見せる)のは要約するとこんなシーンです。

28年間休みなくホレスの店で働き続けたコーネリアスはキスはおろか、女性に触れた事もない。「キスをするまでは帰らない」と決心した彼と同僚バーナビーは、ドーリーにそそのかされて大都会NYにやって来る。そしてそこでアイリーンと出会い恋をする。実際には文無しの彼は「金持ち」と嘘をつき彼女と高級レストランで食事したりダンスを踊る。しかし文無しであることがバレてしまい大騒ぎに。正直に告白するコーネリアス。そんな彼をアイリーンは「そんなことは最初から分かっていたわ」と彼の愛を受け止める。


つまり、WALL・Eは「小さな町から一歩も出る事なく長い間働き続けるだけだった」コーネリアスに自分を同化していたんですね。そして自分もいつか誰かを愛したいと思ったのでしょう。泣ける...。予告編ではEVE(WALL・Eが好きになる最新ロボット)がミュージカルの踊りのようにくるくる回転するシーンもみられます。


ここで「WALL・E」の監督、脚本のAndrew Stantonのインタビューから一部を抜粋。
(※日本語訳は辞書片手にやったもので正確でない可能性があります)

How did you get the film Hello, Dolly in there?

Q:どうして「ハロー・ドーリー!」(の映像や音楽)を入れたんですか?


“Isn’t that just the oddest choice ever? I’m going to get asked about that for the rest of my life (laughs).

それについては「これまでで最もおかしな選択じゃない?」ってきっと死ぬまで言われるだろうね(笑)。


“I originally used 1930’s French Swing music; I wanted old against the new. And then The Triplets of Belleville came out and I went, ‘I don’t want to look like I’m copying.’ I’m kinda glad that happened because it forced me to look harder and it broadened my scope.

新しいものより古いものを使いたくて、元々は30年代のフランスのスウィング・ミュージックを使ってたんだ。そしたら「ベルヴィル・ランデブー」が登場した。私は「マネをした」とは思われたくなかったんだ。でも結果的に良かったと思うよ。なぜならもっと必死に調べなければならなくなったからね。そして自分の視野を広くすることができんだ。


“And so I looked at Broadway musicals, and I stumbled across Hello Dolly. I had done musical theatre in high school, and one of the standards is Hello Dolly. And I heard that phrase ‘out there’ in the song "Put on Your Sunday Clothes" and it was a complete gutteral (sic) aesthetic choice: ‘Out there!’ and then you cut to stars, and it just worked.

そこでブロードウェイのミュージカルを調べてたんだ。そして「ハロー・ドーリー!」と巡り会ったのさ。高校のミューカルについて調べていたらスタンダード作品の1つがこれだったんだ。そして私は「Put on Your Sunday Clothes(日曜は晴れ着で)」という歌の中に「out there(外の世界に)」というフレーズを聴いたのさ。のど声で発生されるこの「Out there!」に合わせて星空の場面にカットが切り替わる。これが自分の美意識にとって完璧だと思えたんだ。


"And then I realized why it was working for me: because it’s about these two young guys, stuck in a small town, who just want to sneak away for a day, and have a life, and kiss a girl. And I thought, ‘That’s WALL-E!’ So, you’re going to meet WALL-E’s hopes, dreams, and soul in Frame One before you ever meet him.

そしてどうして私の心をこんなにも動かしたのかに気がついたんだ。ずっと小さな町にとじこめられていた2人の若者がやりたかったこと、それは1日だけこっそり出かけて人生を楽しみ女の子にキスをする、これだけなんだよ。そして思った。「それってWALL・Eじゃないか!」。人々はWALL・Eに映画館で出会うよりも前に、彼の「希望」「夢」そして「魂」を感じるだろうね。


“And then I found the song "It Only Takes a Moment" and then I looked at the movie footage, and I saw the two lovers holding hands. That was a big ‘Ah-ha!’ moment for me, because I have a character who can’t actually say ‘I love you’ but he can express it by holding hands. And when you get a gift like that from an initial inspiration, you take it as fate. So I ran with it (laughs).”

そして「It Only Takes a Moment(ほんの一瞬のこと)」という曲を見つけて、映画のそのシーンを見たんだ。そこで恋人達が腕を組んでる姿を見たのさ。これは私にとって最高の瞬間だったよ!なぜなら私は実際に「愛してる」と話す事ができないキャラクターを作っていたけど、彼は腕を組む事でその事を表現することができると分かったんだ。人は最初のインスピレーションを得た時に「これは運命だ」と受け入れるだろ。私もそれに従ったのさ(笑)。

Sci-Fi, Hello Dolly in WALL-E


「Put on Your Sunday Clothes」と「It Only Takes a Moment」はどちらも「ハロー・ドーリー!」の重要な場面で使用されています。前者はコーネリアスバーナビーが町を飛び出すシーン。

「Put on Your Sunday Clothes」より
町の外には別の世界がある
この田舎町の彼方に
ハイカラな都会がある
街の灯またたく都会がある
目を閉じれば君にも見えるだろう

監督が感銘を受けた「Out there!」は2:40あたりから聴けます。


そして後者は予告編に出てくるコーネリアスがアイリーンに告白するシーン。

「It Only Takes a Moment」より
ほんの一瞬あればいい
二人の目があった時
心に感じるのさ一瞬のうちに
僕はもう独りではないと

「It Only Takes a Moment」のシーン(歌は2:00くらいから)


この2曲は「WALL・E」サントラ(US盤が6/24発売予定)にも収録されています。
(「ハロー・ドーリー!」にゲスト出演して1曲歌ってるルイ・アームストロングによる「La Vie En Rose」も収録)

Wall-E (Dig)

Wall-E (Dig)


「ハロー・ドーリー!」のサントラはこちら。

Hello, Dolly!: Original Motion Picture Soundtrack (1969 Film)

Hello, Dolly!: Original Motion Picture Soundtrack (1969 Film)

こちらはiTunes Storeでも発売中。


それはそれとして、Andrew Stantonの前作「ファインディング・ニモ」は「ベルヴィル・ランデブー」と2003年のアカデミー賞を争って負けた過去があるから根に持ってるのかもしれませんね。


ところでこの予告編には決定的な矛盾が存在します。それは「映画内映画で実写の人間」を登場させておきながら、「本編ではCGの人間」が出てくること。2700年の人間は一瞬だけ予告編に登場しますが、「怠惰な生活を送り続けぶくぶく太った」という設定になっているそうです(噂ですが)。


さらに余談。「ハロー・ドーリー!」は別のディズニー映画と非常に似た部分があります。それは最近公開されたばかりの「魔法にかけられて」(20080415)。舞台はどちらもNYでセントラル・パークで大勢で踊るシーンがあり、後半に高級レストランでダンスを踊るところも同じ。まぁNYを舞台にしてセントラル・パークで踊るミュージカル映画って探せば他にもあるかもしれませんが。


思いのほか長文となってしまいました。予告編ではほんの一瞬しか映らなかった「ハロー・ドーリー!」はかなり深いレベルで「WALL・E」と関わってるようです。次回はまた別の映画について語る予定です。