軍鶏-Shamo-


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裕福な家庭に生まれ育ちながら、確たる理由もなく突然両親を殺した16歳の少年・成嶋亮。少年院で過酷なリンチから逃れるため身に着けた空手を武器に、彼は世界規模の格闘技イベント「リーサル・ファイト」に挑戦する


先日数年振りにマンガ喫茶に行ったらなぜか読みたかった本が全然置いてなくて(もしくは探せなくて)、たまたま手にして読んだのが「軍鶏」。これがとても面白かった。原作は途中までしか読めなかったけど、現在映画化されていて公開中らしい。しかも監督は凄まじいバイオレンス描写で話題になった「ドッグ・バイト・ドッグ」のソイ・チェン。これは「見ろ」ってことだな、と判断し渋谷イメージフォーラムへ。

原作が日本の漫画だけど香港映画である本作。人名や地名は日本名のままだけど役者のほとんどは香港人で登場人物は全員中国語を話すという不思議な世界(映画館によっては日本語吹替えで上映したらしい)。だけど、「香港映画とはそういうものだ」と無理矢理解釈したので問題無し。


「ドッグ〜」は子どもの頃から殺しを叩き込まれた殺し屋の主人公がある少女との出会いをきっかけに人間的な生活を過ごそうとするがなかなかうまくいかない、という話。対して「軍鶏」の主人公成嶋亮はやさしい家族に囲まれた平凡で大人しい優等生だったのに、両親を殺した罪で少年院に行きそこで空手と出会い次第に暴力的になる男の話。両者は順序こそ違うが強烈な生への執着心を武器に倫理や道徳を無視して向かってくる相手をとにかく殴り痛めつける。そうしないと「自分が殺されてしまう」から。

それにしてもここまで感情移入しづらい主人公も珍しい。同じように少年院でボクシングに出会った矢吹丈は影の部分はあっても、仁義や友情といったものは持ち合わせていてそれゆえに愛された。しかし亮にはそれがない。己の目的の為には一切手段を問わず、時には味方さえも裏切る。結果クライマックスシーンでの魔裟斗との試合にはセコンドにさえ誰もつかず、観客から罵倒を受けながら戦うことになる。誰からも理解されずそれでも戦う亮の姿は、共感できないがそれゆえに美しくもあり魅力的。

そのように感情移入できない主人公(あるいは観客)を救う為なのか、これでも映画版の亮は原作と比べると多少は人間的な描き方をされている。その1つがラストに明かされる「ある事実」。これは原作にはなかったもので、これにより亮の狂気に1つの理由が示される。しかし個人的にはこれはいらなかった。できれば理由もなくやみくもに戦い続ける亮を見ていたかった。

そんな事を考えていたら秋葉原では大した理由もなく人を殺す男が暴れていたそうで...。困ったもんです。


追伸
カウンターに原作者による「小説版」というのが売ってたので今読んでます。映画のノベライズかと思ったら全然違うみたい。こちらの感想はまた改めて。


ドッグ・バイト・ドッグ [DVD]

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小説 軍鶏

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