魔法にかけられて

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“アニメーションの世界”に暮らす心優しいプリンセスのジゼル(エイミー・アダムス)は、夢にまで見た王子様との結婚式の当日、意地悪な魔女に騙されて魔法をかけられてしまい、世にも恐ろしい世界へ追放されてしまう。そこは“おとぎの国”とは正反対の刺激的な“現代のニューヨーク”で、ジゼルはパニックに陥ってしまう。


まりんに「『まほーにかけられて』のプリンセスがみたーい」とせがまれて、イヤイヤ連れて行きました。

お約束ではあるけれど、女の子はみーんなプリンセスが大好き。ウチみたいに親が「プリンセス」系が嫌いで極力見せないようにしてても、隙さえあれば「ヒラヒラのドレス」を着ようとする(親は買わないが、じーさん、ばーさんが買い与える)。通わせているバレエ教室でも先生が「好きなプリンセスは誰?」と聞くと「シンデレラ!」「オーロラ姫!」と答えて、女の子はそのプリンセスになりきって踊る。(いつも思うがこの時に「レイヤ姫!」とか答えるのはダメなのか?)

そんな訳で決して積極的に見たかった映画じゃないんだけど、ふたを開けてみたらすごく良かった。
一言で言うと「ディズニー版ショーン・オブ・ザ・デッド」だった。


映画の前半は古典的なディズニーアニメをネタにしてそれらを逆手に取った自虐的ギャグ(おとぎの国ではかわいい女の子でも、現実のNYでは狂人にしか見えない)の応酬。

泊めてもらった部屋を掃除するために、「白雪姫」よろしく歌を歌って動物に手伝わせようとするが、NYなので集まったのはドブネズミや鳩やゴキブリ達(!)。こいつらが集団で食器を洗ったり(リアル「レミーのおいしいレストラン」だ)、掃除をする様は悪趣味全開。(ちなみにこのシーンのドブネズミと鳩はCGではなく本物らしい。)

その後、セントラル・パークで連れの静止も聞かずに突然高らかに歌い出し、それが徐々に広がっていき最後にはパーク全体を巻き込んでの一大ミュージカルへと発展するシーンでその勢いは頂点に達する。個人的には「モンティパイソンの人生狂騒曲」の「Every Sperm Is Sacred」を思い出した(まぁ、あそこまで下品じゃないけど)。


(参考)「Every Sperm Is Sacred」(英語字幕付)


いずれもバカバカしい内容にも関わらず、徹底して作られていて非常に好感が持てました。

おとぎ話のパロディといえば「シュレック」があるけど、私は大嫌い。表面だけ小バカにしたようなパロディにしていながら、結局は同じように安直な展開(顔は醜くても心がやさしい主人公が幸せになる)でイライラする。ディズニーを否定するのならば、テックス・エイヴリーみたいにもっと徹底的にやるべきであって中途半端なのが1番良くない。

では「魔法にかけられて」の後半はどうか?


おとぎの国からやってきたジゼルはNYで弁護士のロバートと出会う。彼は仕事で毎日他人の離婚話を聞かされていて、自身も妻に逃げられた経験がある夢を信じない現実主義者。ゆえに娘にもおとぎ話を読ませず、常に現実を見るように諭している。

彼らは当初自分と違う価値観や考え方を持つ相手を否定し拒絶する。しかし徐々に自分自身を見つめ直し始める。自分が信じていた理想は虚構なのか?自分が考えていた現実は実はもっと単純なのか?これはたくさんの「異文化コミュニケーション映画」と同じ展開。理想と現実の狭間で2人の気持ちは揺れ動く。

そして魔女の「毒リンゴ」を食べて眠り続けるジゼルを救うために(彼女を追ってきた)王子様とロバートは奮闘する。この流れは前半パロディにした「古典的ディズニーアニメ」の王道路線そのまま。これは(いささか強引ではあるけれど)「嘘くさいかもしれないが、それでも信じれば夢は叶う」という制作者の決意表明であり、過去の作品への敬意だと感じました。ナンセンスと笑うだけではなく、リスペクトしているのが「シュレック」との大きな違い。

とはいえ、単に過去の作品をなぞるだけなら意味がなかったけど、そうはならなかった。「白雪姫」や「シンデレラ」のように「いつか王子様が」と願うだけで自分から何もすることがなかった受け身な女の子(個人的に大嫌い)だったジゼルは、魔女に捕らえられた「愛する彼」を救う為に、自ら剣を取り魔女と戦うのだ!このシーンが非常に素晴らしかった。


ショーン・オブ・ザ・デッド」の前半も幾多の「ゾンビ映画」のパロディでありながら(「ゾンビのフリをして逃げる」といったギャグ満載)、後半は「ゾンビに襲われる恐怖」や「愛する人がゾンビになってしまった哀しみ」といった、王道ゾンビ映画にある魅力が満載でリスペクトに溢れていた。前半ダメ男だった主人公ショーンはラストに誰よりも勇敢にゾンビと戦う。

この「皮肉&リスペクト」という構造が「プリンセス」「ゾンビ」の違いこそあれこの2作品に共通していて、過去作品の悪い面を見直し、いい面を追求し進化させたのだ。これが面白くないハズがない。

当然ながら最後には大団円を迎えるんだけど、ちょっと意外な展開もあるし、散らばった様々なピースが見事に収まるラストがとても良かった。他にもオープニングとエンディングに出てくる「ポップアップ絵本」を模した映像も上品で良かった。


ザ・ワールド・イズ・マイン」で殺人鬼トシモンに「命の値段」「殺人がいけない理由」「ユートピアの実現」を問われた総理大臣ユリ勘はこう答えた。

命にはハナから価値がない
「殺人はいけない」という理由はない
ユートピアのような世界は永久に来ない


それでも命は重く大切であり人を殺すことは悪いことである
ユートピアは存在しなくともめざすべき世界であることに間違いない


現実の世界は明日のことだって分からないし「永遠の愛」なんて存在しない。
それでも自らの意思で強く進めば夢は叶うし、魔法だって起こせる。
そう思わないとこんな世の中やっていられない。


プリンセス目当てで見たまりんに感想を聞いてみた。
「リスが面白かったよ。こーんな顔してた」
と笑っていた。

もう少し大きくなってこの映画を見た時にそういうことに気がついてくれたらうれしいなと思いました。皆にオススメ。


真説 ザ・ワールド・イズ・マイン (1)巻 (ビームコミックス)

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