スペインの悲しき歴史と壮絶な三角関係 - 『The Last Circus』

冴えない中年男ハビエルは、サーカスの人気者だった父親に憧れ道化師になった。父は、 1937年の公演中、軍に連行され、深手を負って道化師生命を断たれていたのだ。いつかは父のようになりたいと願うハビエルだったが、回ってくるのはボケ役のピエロばかり。ある日、人気道化師のセルヒオが、妻ナタリアを殴る現場に居合わせたハビエルは、傷を負った彼女を介抱。二人は次第に魅かれ合うようになる。だが、セルヒオの暴力と嫉妬は激しくなり…。
スペイン映画界のヒットメーカー、イグレシア監督が手掛けた異色のラブ・ストーリー


ラテンビート映画祭(9/20の時点でサーバー落ちてます)

USオフィシャルサイト

『オックスフォード連続殺人』&ラテンビート映画祭のお知らせ - THE KAWASAKI CHAINSAW MASSACRE


前回ちょっと紹介したアレックス・デ・ラ・イグレシア監督の最新作『The Last Circus(英題)』をラテンビート映画祭で観て来ました。大大大傑作!『オックスフォード連続殺人』を観て「監督の過去作品と比べるとラテンのギラギラした情熱みたいなのはあまり感じられなくてちょっと寂しかった」と書きましたが、本作はその「情熱」がこれまで以上に爆発していて怖いくらいでした!


上に書いた「ラテンビート映画祭」サイトに載ってたあらすじには「異色のラブストーリー」とあるので、ちょっとユルめの作品かと思っていたら、冒頭でいきなりナタを手にした女装ピエロが銃弾の飛び交う中、敵の兵士を次々に虐殺していくというとんでもないシーンから始まったので驚愕!


まさに気狂いピエロ


本作の中心人物は3人います。1人目が冒頭に登場した虐殺ピエロの息子ハビエル。彼も父に憧れてピエロになりましたが普段は内気で気弱なおっさんです。


バカ殿にしか見えない


2人目が同じサーカス団の看板スタークラウンのセルヒオ。クラウンもピエロも道化師ですが、前者がおどけて人を笑わせるのに対して、後者はほほに涙のマークをつけていて一方的にバカにされる存在です。


こちらがクラウン。要するにドナルドと同類


3人目がサーカス団の看板女優でありセルヒオの妻(恋人?)で美人のナタリア。彼女は日常的に酔ったセルヒオから暴力を受けており、その事実を知ったハビエルと三角関係になるのですが、ここから延々と暴力の連鎖が続いていくというのがおおまかなストーリーです。


ザ・三角関係


内気で冴えない中年男のハビエルが両手にライフルを持って惚れた女を救うために明らかに間違った方法で突進していく様は津山三十人殺しの都井睦夫の霊が乗り移ったように壮絶で、かつ不憫で泣けてきます。


死ね!全員死ね!!!



実はこの映画、スペイン内戦とそれを発端とした共和国側(左派)とフランコ独裁政権(右派)による長い抗争の歴史を背景にしていて、それをそのまま対立するピエロとクラウンに置き換えて描いています(冒頭の父ピエロによる虐殺はスペイン内戦が舞台です)。


スペイン内戦というと、最近では『パンズ・ラビリンス』でも描かれていました。オフェリアの父はスペイン内戦で亡くなっていて、母がフランコ政権の冷酷な軍人と再婚することになり、そこに共和国側のゲリラが絡むという内容でした。その印象もあって、私はフランコ政権=ファシズム=悪というシンプルな図式を思い浮かべながら観ていたのですが、帰宅して調べると実際はそこまで単純ではなかったようです。


例えば1973年には反フランコ政権であるテロ組織ETAが、当時の首相でありフランコの後継者と言われたルイス・カレーロ・ブランコを自動車ごと爆破して殺害しています。本作でもこの事件は大きく取り上げられていて、ハビエルがたまたまその現場に居合わせるシーンがあります。解釈は様々ですが、単にフランコ政権のみが「悪」とはいえないようです。

また、共和国政府をフランコから守れと言われたこの時代、実際には各地で極左による地方執行機関が乱立しており、すでに共和国政府は地上から消えていたと言っても過言ではなかった。何のことはない。結局のところ民主国家であったスペイン共和国は右派と左派の両方から倒されたのだった。

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愛する者をも暴力で従わせる独裁的なセルヒオをフランコ政権、悲しい歴史を背負って愛する者を暴力で救おうとするハビエルを共和国側と考えると、彼ら(道化師)に愛されそして最も傷つけられたナタリアはスペインそのものかもしれません。こういうスペインの歴史と背景を知った上で観るとさらに面白くなるので鑑賞予定の方は予習しておくと良いと思います。


今後の上映予定
Tジョイ京都 9/24(土)16:00〜

横浜ブルク13 10/7(金)18:30〜


繰り返しになりますが、本当に大傑作なので、映画祭とは別に1日も早く正式な日本公開が決まるよう祈ってます。もう1度と言わずあと数回は大画面で観たい!超オススメ!


(その他)
アレックス・デ・ラ・イグレシア監督の『どつかれてアンダルシア』もツッコミ役とボケ役の永きに渡る確執を描いてましたが、本作と同じようにスペイン内戦という背景とリンクしてるのかも。
・オープニングタイトルで様々な映画のワンシーンが登場するのが超かっちょいいです。燃える!


(参考)
スペイン内戦 - Wikipedia


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