葉真中顕『絶叫』を読みました

太陽の下 おぼろげなるまま
右往左往であくびして死ね
オロオロと 何にもわからず
夢よ希望と同情を乞うて果てろ
(略)
何笑ってんだよ
何うなずいてんだよ
おめえだよ
そこの そこの そこの
おめえだよ おめえだよ

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葉真中顕さんの傑作『ロスト・ケア』に続く二作目『絶叫』を読みました。


『絶叫』はマンションの一室で猫に食べられた死体が発見されるシーンから始まります。部屋の主は「鈴木陽子」。この死体を女刑事が調査を進めるのと同時進行で「鈴木陽子」の人生が「あなた」という二人称で綴られます。


「鈴木陽子」は地方都市の平凡な家庭で暮らしている平凡な女性でしたが、バブル崩壊で破産した父親の失踪、離婚、ブラック企業への就職、風俗、DVといった現代社会の闇を象徴するような不幸に次々と飲み込まれて行きます。彼女自身は別に不真面目でもなく性格が悪い訳でもなく、真っ当に働いて真っ当に生活をしようとしているだけなのに、理由もなく彼女は世界から「棄てられて」しまいます。


彼女に降りかかる不幸は(特に女性なら)「誰にでも起こりえる」事ばかりです。当初は「鈴木陽子」という架空の人物の話として読み進めるのですが、「あなた」という二人称で語られる「鈴木陽子」の人生を読み進めるにつれ、これは(多くの人々にとって)「自分の物語」なのだと気づかされます。これは「鈴木陽子」という何処かの誰かの話ではなく、「あなたの物語」なのです。


冒頭に書いたエレファントカシマシの『奴隷天国』は、最初は何処かの誰かの歌だと思ってニヤニヤしながら聴いてるのですが、最後の「おめえだよ」で冷水をかけられたような気分になります。同じような気分を『絶叫』でも感じる事になるでしょう。


世界から棄てられた「鈴木陽子」=「あなた」は最後に世界を敵に回し復讐を果たそうとします。負けるな「鈴木陽子」。あなたは決して悪くない。


エレファントカシマシ『奴隷天国』


絶叫

絶叫

ロスト・ケア

ロスト・ケア