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『ウォルト・ディズニーの約束』と『メリー・ポピンズ』とシャーマン兄弟

MOVIE



ウォルト・ディズニーの約束』を観ました。予想を超える面白さでとても楽しめました。


本作は50年前に公開された映画『メリー・ポピンズ』製作の裏話ということで、前日に『メリー・ポピンズ』を見直してから望んだのですが、結論から言ってこれが大正解。セリフの一つ一つや、ちょっとしたメロディ等聴くだけで、『メリー・ポピンズ』のあらゆるシーンが甦ってきたので、ぜひ予習をオススメします。


ここからは多少ネタバレ含みます。




改めて『ウォルト・ディズニーの約束』について。1964年の映画公開からさらに遡ること20年前。ウォルトは娘が好きだった『メアリー・ポピンズ』(※日本では原作の表記は『メアリー・ポピンズ』が一般的)をとても気に入り、娘に「この本を映画にするよ」と約束します。しかし原作者であるパメラ・トラバースは映画化を頑に認めません。それでもウォルトは20年近くも粘り強く交渉し、最終的に資金繰りに困ったパメラが「まぁ話を聞くだけなら」とディズニースタジオがあるLAに旅立つところから映画が始まります。ここからウォルトとパメラによる壮絶な戦いが始まるのでした。


↓ウォルトとパメラ


本作は列記としたディズニー映画ではありますが、ここからパメラの強烈なディズニー攻撃が始まります。ディズニー側はパメラを(彼らなりの)最高の接待で持て成そうとしますが、やる事成す事全て裏目に。ホテルの部屋に置かれた大量のディズニーキャラぬいぐるみを見て「子供じゃないのよ!」と憤慨するパメラ。私自身もディズニーの甘ったるく陽気なイメージや拝金主義とも感じられるビジネススタイルにはあまり良い印象を持ってないこともあり、多いに笑って共感しました(とはいえピクサー作品等大好きですけど)。


映画化についてもパメラの批判は止まりません。「アニメは絶対にダメ!」「ミュージカルなんてとんでもない!」「造語を使うなんて許さない!」と捲し立てます。私も含めた『メリー・ポピンズ』を既に観てる観客は驚きます。「いやいや、それらが無かったら『メリー・ポピンズ』じゃないじゃん!」。


↓アニメ&ミュージカルの金字塔なのに


そんなパメラを演じたのはエマ・トンプソン。面白いことに彼女は『メリー・ポピンズ』に良く似た児童小説『ナニー・マクフィー』シリーズ(魔法が使えるナニーが問題を抱えた家庭にやって来る)の映画化作品『ナニー・マクフィーの魔法のステッキ』『ナニー・マクフィーと空飛ぶ子ブタ』で主役のナニー・マクフィーを演じています。


↓こちらがナニー・マクフィー


演技派と言われるエマ・トンプソンは自身が演じたパメラをリサーチした際に混乱したそうです。

彼女についてリサーチするのは、まるで迷宮に入って行くみたいだったわ。ある角を曲がるとおそろしいモンスターがいて、次の角を曲がると打ちひしがれた子供がいるの。
(パンフレットより)


エマが言う通り、パメラの主張や態度には一貫性がなく、明らかに常軌を逸しています。遂には「赤が嫌いだから映画に赤色を使うな」とまで言ってのけ、ウォルト達を唖然とさせます。その一方で、時折不安な少女のような一面を覗かせるのです。


↓パメラ本人とエマ・トンプソン


映画は、この契約にまつわるドタバタ劇と並行して、パメラの幼い頃の回想シーンが交互に挟まれる形で進行します。そしてパメラにとっての『メリー・ポピンズ』とは一体何だったのか?そしてそれに対してウォルトが取った行動とは?へと徐々にシフトしていくのでした。この構成は実にうまくて感心しました。


今回たまたま娘と一緒に観たのですが、実は父と娘の関係性というのが大きなテーマになっていて、終盤は泣きっぱなしでした。ポイントは原題の『Saving Mr.Banks』(ミスター・バンクスを救え)にあります。ミスター・バンクスとは『メリー・ポピンズ』に登場する子供達の父親の事で、彼は厳格で堅物な銀行家であり、家族の規律を乱すメリー・ポピンズの事が好きではありません。『メリー・ポピンズ』においてはある意味悪役ポジションである彼をどうして救おうとするのか?その謎は観てのお楽しみ。


↓こちらがミスター・バンクス


と、ここまでパメラの話ばっかりでしたが、その対立相手であるトム・ハンクス演じるウォルトについてもちょっとだけ書く。本作においてウォルトはパメラに押されっぱなしで比較的まともな常識人として描かれていますが、実際の彼はパメラに劣らず破天荒な性格だったと言われてます。劇中、そんな彼が実はある障害を抱えていることを明らかにするエピソードがあるので、そのあたりも注目して欲しいです。


そして、図らずもパメラとウォルトの二大奇人の間に立つことになり、翻弄されることになるのが『メリー・ポピンズ』の音楽でアカデミー賞作曲賞、主題歌賞を受賞したシャーマン兄弟。彼らが劇中次々と繰り出す聴き覚えのあるフレーズ(『チム・チム・チェリー』に『スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドージャス』等)に、パメラは全てダメ出しするのですが、見方を変えれば、そのリトライにつぐリトライがあってこそのアカデミー賞受賞だったのかもしれません。


↓劇中のシャーマン兄弟


↓シャーマン兄弟本人と『メリー・ポピンズ』主演のジュリー・アンドリュース


↓ウォルトとデュエットするシャーマン兄弟


このシャーマン兄弟のドキュメンタリー『ディズニー映画の名曲を作った兄弟:シャーマン・ブラザーズ』がCSのDlifeチャンネルで放送されたのでそちらも観てみたのですが、こちらも大変面白かったです。彼らはこの『メリー・ポピンズ』の音楽で世界的に有名になり、その後もディズニー映画を初めとして、印象的な音楽を次々に発表しました。『ジャングル・ブック』に『チキ・チキ・バンバン』、そしてディズニーランドでおなじみの『イッツ・ア・スモール・ワールド』!



実はこの兄弟は性格がまったく違っていて、兄のロバートは大人しく小説を書いたり絵を描いたりするのが好きなタイプで、弟のリチャードは明るく外交的なタイプ。彼らの作曲スタイルは弟が即興で弾いたメロディや歌詞に対し、兄が「こっちのフレーズの方がいい」と修正を加えていくというもので『ウォルト・ディズニーの約束』においてもそのようなシーンが観られます。


タイプが違う二人だからこそこれらの素晴らしい音楽が生まれたとも言えますが、藤子不二雄の例にもあるように長年一緒に仕事をするというのは辛い事も多かったようで、いつしか彼らの間には大きな溝が生まれ、遂にお互いに口もきかない犬猿の仲となってしまいます。


そんな二人の為に立ち上がったのが、彼らそれぞれの息子であるジェフリー・シャーマンとグレゴリー・シャーマン。実はこのドキュメンタリーはこの息子2人の共同製作・監督作品なのです。息子によるインタビューで過去の出来事(いい事も悪いことも)を反芻する兄と弟。そして最後に彼らは久しぶりに出会って握手を交わすのでした。もちろん『メリー・ポピンズ』に関するエピソードも大きく扱われていて、パメラの肉声等も交えながら「気難しい人でとにかく大変だった」という苦労話を聞く事もできます。ちなみに兄ロバートは2012年に亡くなりました。


↓『ディズニー映画の名曲を作った兄弟〜』トレーラー


ウォルト・ディズニーの約束』はとても面白くいい映画ですが、できれば事前に『メリー・ポピンズ』を観て、観賞後に『ディズニー映画の名曲を作った兄弟:シャーマン・ブラザーズ』を観るとさらに面白さが数倍増すのでオススメです。


『ウォルト・ディズニーの約束』オフィシャルサイト


風にのってきたメアリー・ポピンズ (岩波少年文庫)

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Sherman Brothers Songbook

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