『パシフィック・リム』を観ました(ネタバレ多少あり)


一部で熱狂的に受け入れられている『パシフィック・リム』を観ましたが、個人的には今イチ、というか色々と惜しい作品でした。


本作の売りは、とにもかくにも「怪獣と巨大ロボットが戦う」ことであり、「それだけあれば十分だ!」という意見も聞こえてきます。嫌味ではなくそこまで盛り上がれる事を羨ましくさえ思うけれども、やっぱりあのストーリー展開やキャラ設定等は映像の素晴らしさを半減させるくらい良くなかったと思う。


もし監督がマイケル・ベイだったら「映像だけのバカ映画」であったとしても私は納得したかもしれないけど、監督はあのギレルモ・デル・トロなんだよ!


彼は以前こそ『ヘルボーイ』(1作目)や『ブレイド2』等の「オタク趣味全開のボンクラ映画」と、『パンズ・ラビリンス』や『デビルズ・バックボーン』等の「ダークだけど繊細で叙情的な映画」という異なる作風の「どちらかしか」作れないという印象があった。しかし前作にあたる『ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー』において、双方のいい部分をぎゅっと凝縮した作品を作り上げたことから、彼なら「映像だけでない」作品を作ってくれる!やってくれる!と(勝手に)思って期待値を上げていたのでした。んがぐぐ。


ここで、1つの理想的な展開として『ジョーズ』と比較してみようと思います。『ジョーズ』の前半は突如現れた謎の敵により人々が翻弄され、「子供の死」という「絶望」と、それが自分の子供だったかもしれないという「恐怖」が徹底的に描かれます。


パシフィック・リム』においてはこの「絶望」と「恐怖」が圧倒的に足りていないように思えます。「ローリーの兄の死や、マコの幼少時の体験がそうだ」と言われるかもだけど、それらがストーリーにあまり活かされていない印象を受けました。そんな中、芦田愛菜登場のシーンだけは彼女の熱演もありそれなりに良かったのですが、あれも目の前で両親が踏みつぶされるくらいの強烈さが本当は欲しかった所です(レイティングとか色々あるんだろうけど)。


また、オープニングでは突如現れた怪獣と、それに対抗するロボット(イェーガー)との戦いの歴史がダイジェストとして流れますが、せめて20〜30分くらいは「人類の絶望感」をもっともっと出して欲しかった。「このまま怪獣にやられるしかないのか?」と心底絶望させてから、満を持してロボット登場!みたいな。


ジョーズ』の話に戻ると、中盤になってようやく敵に対抗するキャラが集まりますが、全員立場も違えばキャラも濃過ぎるのでケンカばかりでバラバラ。本当にこいつらで大丈夫なのか?という不安を散々抱かせた上で、ラスト間際になってからようやくお互いを認め合う「戦友」になります。


対してローリーとマコのキャラ設定はどちらも中途半端で、あっさり仲良くなるのが不満。一応、「直感重視で常識破り」と「冷静沈着」といった設定っぽいんだけど、『モンスターズ・ユニバーシティ』のサリーとマイクみたいにもっと極端にキャラの違いを見せつけて、(少なくとも)最初はもっとお互い反発しいがみ合って、結果大失敗をして欲しかった。そうした挫折を経験し、互いの抱えたトラウマを共有した上で最後に「戦友」になるべきだったと思います。


また『ジョーズ』に戻るけど、ようやく全貌を現した敵が遥かに想定外で愕然とするシーン。いわゆる「この船じゃ、小さすぎる」だけど、ここに当たるのがあの「カテゴリー5」。でも、あそこは「カテゴリー5…、いや6(絶句)」くらいは言って欲しかった。カテゴリー5と6の違いなんか観客には分からないんだから、もっと極端に「盛って」欲しかった。


そしてラストの決戦。『ジョーズ』は前半にはほとんど全体像が分からなかったのに最後に「はっきり」と見えるようになったのに対して、『パシフィック・リム』のラストは暗いは水中だはで、何が起きてるのかよく分からなかったのも残念でした。もっと「この最後の手段がダメなら俺たちの負けだ」と思わせた上で、それがあえなく失敗し(オタクコンビの忠告が間に合わないとか)、絶望度マックスになって、かーらーのー大逆転!というのが見たかったわけですよ。本当に。


本作はギレルモ・デル・トロ監督にとって夢の企画だったと思うし、予算も十分にあったようなので嬉しくてアレもコレもと詰め込み過ぎたのかな、とも感じました。今回はロボットは1体だけにしてどうにかこうにか勝利を収めて終了。続く続編でようやく各国のロボットが登場して、他のパイロットとのいざこざや確執を描くくらいの余裕があった方が絶対良かったと思いました。


と、散々不満も書きましたが、私の行き過ぎた期待値のせいなのであまり真に受けない方がいいかもしれません。事実、多くの人が怪獣VS巨大ロボットの映像に熱狂しているので、レンタル待ち等言わずに映画館の大スクリーンで鑑賞されることをオススメします。


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