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みんながしってるくせに! - 『ロスト・ケア』を読みました

BOOK



藤子F不二雄のSF短編に『大予言』というのがあります。昔一世を風靡したものの、今では何かにおびえて部屋にこもりきりになっている占い師がいました。心配した周りの者が尋ねます。「先生がこわがっているのは、いったいなんですか」それに対して占い師はこう答えます。


「しってるくせに!!キミだけじゃない!!みんながしってるくせに!!」 


↓何と動画があった


ということで、(元)罪山罰太郎さんの「葉真中 顕」名義による小説『ロスト・ケア』を読みました。


介護保険の実態とそれによる様々な弊害に焦点をあてた推理小説です。そこで明らかになる現実にまずは驚かされ圧倒されますが、私がガツンと来たのはこんな場面です。検察事務官の椎名が、天気でも株価でも競馬でも一年先を正確に予測することはできないとした上でこう言います。

「ただ、例外的にかなり先まで安定した予測ができることもあります。その一つが(中略)人口です。人口推計というのは、十年、二十年くらいなら大きく外れることはまずないんです。今、高齢化だなんて言ってますけど、こうなることは二十年、いやもっと前に分かっていたんです」


途中までは悲惨な現実だなぁと考えつつもどこか他人事のように思いながら読んでいましたが、ここに来て急に「お前も当事者じゃないのか」と引きずり込まれたように感じました。実際、自分も含めたほとんどの人がそれこそ二十年くらい前から「高齢化」という問題をある程度分かっていながら、そのうちうまい解決策が出るだろうと見て見ぬ振りをしてきたように思います。その「罪」はこれから(極端な金持ちをのぞいた)皆に「罰」としてふりかかってくるのでしょう。


そしてそんな絶望的な状況の中で、多くの人は<彼>が現れるのを懇願する事でしょう。<彼>が我々の罪を身代わってくれる神なのか、我々に罰を与える悪魔なのかは分かりませんが、この世界に<彼>は必要なのかもしれません。


『大予言』の占い師は最後に孫に向かってこう言います。


「しんちゃん おまえにはもう予知してあげる未来もないんだよ」


シビアな社会問題を池上彰ばりに分かりやすく解説しつつ、さらに推理エンターテイメントとしても楽しめる一冊です。オススメ!


新人賞をとって、ミステリー作家になりました。 - 「俺の邪悪なメモ」跡地


ロスト・ケア

ロスト・ケア


※オマケ考察 ↓この先はネタバレ含むので読んだ人のみ推奨

追記 こちらの考察に関して葉真中さんより「そのつもりで書きました」とコメントいただきました。やった!







登場人物の「斯波宗典(しばむねのり)」ですが、彼の名前はヒンドゥー教の「シヴァ神」から取られているのではないかと思います。シヴァ神は破壊を司る神で、世界の寿命が尽きた時世界を破壊すると言われています。しかし暴風雨が水害をもたらしつつも植物に水や栄養を与えるように、次の世界の創造に備える役目をしているとも言われています(Wiki参照)。斯波宗典の行動はまさに破壊と創造だったのではないでしょうか。