荒木飛呂彦『岸辺露伴ルーヴルへ行く』の元ネタについて

ジョジョ文庫マラソン」終了後も荒木先生関連の書籍を色々と購入して楽しんでます。


その中の1冊が『岸辺露伴ルーブルへ行く』。こちらは「ルーヴルのBDプロジェクト」というフランスでのコミックの総称にあたるBD(ベーデー)を通じてルーヴル美術館の魅力を伝えるという趣旨で、荒木先生が日本人で唯一人選ばれて制作された123ページフルカラー作品です。


岸辺露伴 ルーヴルへ行く (愛蔵版コミックス)

岸辺露伴 ルーヴルへ行く (愛蔵版コミックス)



主役は『ジョジョの奇妙な冒険』第四部に登場するキャラクターで、奇天烈なマンガ家の岸辺露伴。ただし『ジョジョ〜』の岸辺露伴とは微妙に設定が異なっており(ジョジョでは20歳からスタンド使いになったけど、こちらでは17歳から使えている)、巻末の作者インタビューでも「今回はルーヴル用のキャラで描いてるので、『ジョジョ』用に描いてるのとちょっと違うんですよ」と答えてます。


ストーリーは露伴が17歳の時から始まります。祖母の経営するアパートに越してきた人妻から「ルーヴル美術館に最も邪悪な絵」がある、という話を聞いた露伴が、10年後に実際にルーヴルに行きその絵を調べようとすると不可思議な事件が起きるというモノ。BDというよりは基本的にはいつもの荒木節というか、いわゆるマンガとして描かれています。


この17歳の時のパートが前半、10年後のルーブル行きが後半となるのですが、今回たまたま前半パートの元ネタとおぼしき小説を見つけたので紹介します。松本清張の短編集『黒地の絵』に収録の『草笛』がそれ。


黒地の絵 (新潮文庫―傑作短編集)

黒地の絵 (新潮文庫―傑作短編集)


改めて『ルーヴル〜』の前半パートのあらすじ。17歳の露伴が祖母が経営するアパートでマンガの新人コンテストに応募する作品を描いてる時に、隣の部屋に21歳の離婚調停中の人妻、奈々瀬が越して来ます。そして彼女から「この世で最も黒い絵」もしくは「最も邪悪な絵」の話を聞きます。露伴は奈々瀬をモデルにして描いたマンガを見せると、なぜか彼女は激高しその原稿を泣きながらハサミで切り裂いて彼の元を去って行きます。


こちらが奈々瀬さんと17歳の露伴


そして『草笛』のあらすじ。17歳の周吉が祖母と間借りしている部屋の隣に22歳の離婚調停中の人妻、冴子が越して来ます。周吉は仲間と文学の同人誌を出しており、その同人誌に興味を持った彼女とささやかな交流が始まります。しかし周吉が冴子の似顔絵を彼女に見せたところ、なぜか彼女は憤ってその紙を裂いて出て行ってしまいます。


こんな感じですごく似た内容になっています。また『草笛』の冴子は昼は洋装だが帰宅すると「大柄な模様で派手な色の着物」を着ていると表現されていて、ここも『ルーヴル〜』の奈々瀬とまったく同じです。荒木先生が『草笛』を下敷きにしていることは間違いないと思われます。


『草笛』は最後にちょっとだけ後日談的な話がついてはいますが、なぜ似顔絵を見せた時に彼女があのような行動をとったのかは謎のままになっています。想像ですが、『ルーヴル〜』は荒木先生による『草笛』の謎解きだったのかもしれません。また短編集のタイトルである『黒地の絵』から「この世で最も黒い絵」「最も邪悪な絵」という発想を得たのかもしれません。


念のために書くと、パクリとして糾弾しているわけではありません。『ジョジョ〜』シリーズにおいても、映画や絵画をを元ネタにした箇所はあちこちで散見されますが、いずれもオリジナルをしのぐ面白さに仕上げているのが荒木先生の持ち味であると認識しています。


今回は元ネタが松本清張という意外性と、たまたま嫁さんが読んだ本に同じ話が載っていたことが面白かったのでここに紹介しました。


『ジョジョの奇妙な冒険』文庫版全50巻を読みました


(参考)
フランス行ってもやっぱり荒木はドォオォオォオォオォだったッ!?〜『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』荒木飛呂彦|メモリの藻屑 、記憶領域のゴミ
(下部のリンク先に荒木先生以外の「ルーヴルのBDプロジェクト」作品のレビューあり)


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