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『メアリー&マックス』アダム・エリオット監督について


川崎で『メアリー&マックス』を観ました。本編の感想の前に、今回はアダム・エリオット監督について。



アダム・エリオットは1972年生まれのオーストラリア人でクレイアニメ作家。96年メルボルン大学在籍中に初の短編『Uncle』を発表。続いて『Cousin』(98年)、『Brother』(99年)を発表し、家族三部作を完成。


そして2003年に発表した約20分の短編『ハーヴィー・クランペット』で、ピクサー社『Boundin'』等をを押さえてアカデミー短編アニメ賞を受賞し、一躍有名に。


日本語字幕ないけど全てYouTubeで閲覧可能。


『Uncle』 (1996)


『Cousin』(1998)


『Brother』(1999)


『ハーヴィー・クランペット』(2003)


アダムは自身の作品をクレヨグラフィーズと呼ぶ。これは「クレイの」「アニメで綴る」「バイオグラフィ」という意味の造語で、その名の通り過去4作全てが「ある人物の生涯」を淡々と描写したものになっている。そして彼らは全て何かしらの障害を抱えた人物という共通点がある。


例えば『Uncle』に登場する「叔父さん」は妻や愛犬を失い精神が壊れた男だし、『Cousin』の「いとこ」は脳性マヒだ。『Brother』は自叙伝ともいえる作品で、元曲芸師で事故で半身不随になりアル中となった父や、片目の視力が極端に悪くぜんそく持ちの兄等が登場する。『ハーヴィー・クランペット』のハーヴィーは知的障害のあるトゥレット症候群(wiki)だ。それぞれ全てが事実ではないものの、エピソードの1つ1つは実際にあったことが元になってるらしい(『Cousin』のラストでモールで働くいとこを偶然見かけたこと等は実際にあった話)。


またアダム自身も生まれつき病理震顫という身体の一部が震えるという障害を抱えている。クレイアニメという繊細な動きが要求される仕事にとってこの病気は致命的とも思われるが、彼はそれによって生まれる歪みを作品の個性として活かす事に成功している。彼にとって障害を持って生きるというのはごく自然で当たり前のことであり、個性の1つでしかないのだ。


ストーリー自体はヘビーな内容が多く考えさせられることが多い。しかし親しみやすいキャラクター造形とクレイアニメのユーモラスな動きにより、楽しく観ることができる。実写であればこうはいかないと思う。


アカデミー賞を受賞した『ハーヴィー・クランペット』のストーリーはこんな感じ。


ポーランドで生まれたハーヴィーはトゥレット症候群で知的障害があると診断されイジメに合う。両親は焼死し、移民としてオーストラリアに来てからも雷に打たれたり、ガンになったりと不幸続き。しかし病院で出会った看護婦と結婚し、サリドマイドwiki)の少女を養子にして幸せな時間を過ごす。最後は妻に先立たれ、老人養護施設に移りそこで晩年を過ごすことになる。


↓ハーヴィーの家族


『ハーヴィー・クランペット』はハーヴィーという1人の男の山あり谷あり(主に谷だけど)の生涯の記録だ。アダムは「この作品のメッセージは?」と聞かれこう答える。

私は、ただ1人の人間の一生をわかりやすくシンプルに描こうとしているだけです。いい物語を、上手に伝えることです。本作にメッセージがあるとすれば、人生は何もかも自分でコントロールできるわけではないし、すべて運命で決まっているわけでもないということでしょうか。船の舵を切ることはできても、嵐に遭うときは遭います。
『コマ撮りアニメーションの秘密』より


『ハーヴィー・クランペット』のラスト、ハーヴィーは自殺を考える。しかしある出来事から彼は死ぬ事をやめ、残りの人生を好きなように生きる決意をする。そしてアダム自身の言葉でこの映画は幕をとじる。

事実1034 人生とタバコは最後まで吸い切るもの


クレイアニメ作家というと、アニメーションの動きを第一に考える人が多いが、アダムにとって最も重要なのは脚本であり、これしかないと思うようになるまで満足しないそうだ。彼はこの一言を伝えんが為にこの作品を作ったのかもしれない。


次回は『メアリー&マックス』の感想の予定です。


(その他)
・アダム・エリオットはゲイでもあり、アカデミー賞のスピーチで「僕の美しい恋人、ダンへ」と述べたことも話題となった。
クレイアニメでも『ウォレスとグルミット』シリーズのように一部でCGを使用することは珍しくないが、アダムは全て手作業で行っている。


↓『ハーヴィー・クランペット』に加えて家族三部作も入ってオススメ。

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コマ撮りアニメーションの秘密―オスカー獲得13作品の制作現場と舞台裏

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