少女が彼を救った - 『イリュージョニスト』


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1950年代のパリ。場末の劇場やバーで手品を披露していた老手品師のタチシェフは、スコットランドの離島にやって来る。この辺ぴな田舎ではタチシェフの芸もまだまだ歓迎され、バーで出会った少女アリスはタチシェフを“魔法使い”だと信じるように。そして島を離れるタチシェフについてきたアリスに、彼もまた生き別れた娘の面影を見るようになり……。


六本木で観ました。面白かった!


これ、一見老人が少女を救った話のように見えるけれど、実際には逆だと思う。老人、タチシェフは冒頭から自分の手品(芸)は時代遅れであることを百も承知しており、しかもそのスタイルを変えるつもりはなく、はっきり言えば死に場所を求めてドサ回りをしているようにしか見えない(本作は『ベルヴィル・ランデブー』同様に極端にセリフが少なく、表情も乏しいのでキャラクターの心情がやや分かりにくい)。


アリスはようやく電気が来た田舎の島に住んでいて、文字通り無垢な少女として描かれる。彼女は手品師タチシェフを「魔法使い」だと信じ勝手について来てしまい、結果的に彼に経済的な負担を負わせることになる。


手品では稼げないタチシェフがアリスにバレないように夜中にバイトに励むシーンは非常に笑えるしユーモラスであるのと同時に、「少女に貢ぐ為に報われない努力をする哀れな老人」に見えなくもない。


だけど、自分には彼が哀れには思えないのだ。


タチシェフの手品のスタイルが世間から受け入れられなくなるのと反比例するように、アリスは都会の生活に溶け込み洗練された女性へと成長し、やがて素敵な男性と出会う。アリスが幸せになることがタチシェフが最後に望んだことであり、同時に彼の幸せでもあった。彼の時代遅れの手品がアリスに魔法をかけたのだ。「父」として、こんなにうれしいことはない。


元々、本作はジャック・タチが娘のために書いた幻の脚本が基になっているという。これは父から娘へ「立派に育ってくれてありがとう」という「感謝の手紙」のようなものだったのかな、と思う。


ただ、そのジャック・タチへのリスペクトに固執し過ぎたのか、『ベルヴィル・ランデブー』における過度にデフォルメされたアクションみたいな分かりやすい見せ場は少なく、そこは評価が分かれるかもしれない。


とはいえ、ストーリーをまったく抜きにしても、美しく優雅なアニメーションを観るだけでも十分に堪能できます。「CGアニメはちょっと苦手」な人には特にオススメ。


(その他)
・タチシェフはフランス語を話し、アリスはスコットランドの言語であるゲール語を話し、英語圏で生活する、という設定も面白かった。『ミスター・ビーン カンヌで大迷惑?!』も言語が異なる3人の珍道中だったけど、こういうの好き。

・上の「あらすじ」や日本版トレーラーにはっきりと「生き別れた娘の面影」って出るんだけど、本編ではちょっと匂わす程度で直接的には語られない。配給会社とかの判断なのかね?

ジャック・タチが好きな人には特に笑えるシーンがあるのでお楽しみに。


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