コピーロボットとケンカ - 『月に囚われた男』

サム(サム・ロックウェル)は地球で必要なエネルギー源を採掘するため、3年間の契約で月にたった一人で滞在する仕事に就く。地球との直接通信は許されず、話し相手は1台の人工知能コンピュータ(ケヴィン・スペイシー)だけの環境だったが、任務終了まで2週間を残すある日、サムは自分と同じ顔をした人間に遭遇する。


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藤子Fの『パーマン』で面白いのは「コピーロボット」だ。パーマンの仕事に忙しいミツ夫はコピーロボットに宿題をするように頼むが、オリジナルのミツ夫が宿題が嫌いなので、コピーロボットのミツ夫も宿題が嫌い。見た目がまったく同じ2人がケンカする様はシュールでかつバカバカしい。



で『月に囚われた男』。劇場で見逃してしまったのでレンタルBlu-rayで鑑賞したが、これがものすごく面白かった。なるべく情報をシャットアウトしてから観た方がいいのであまり詳しく書かないが、月面基地で3年間も1人で作業していたサムはある段階から「もう1人のサム」と生活を共にすることになる。


この2人が見た目がまったく同じ(演じるのはどちらもサム・ロックウェル。名演!)なのに微妙に個性があって、2人が卓球すると片方が圧倒的に強かったりするのが楽しい。このあたりはまさに「コピーロボットの自分」とのケンカでニヤニヤしてしまった。


そんな凸凹コンビの2人(1人?)がこうなってしまった謎を解明しようとするのだが、ここからはDVD/BDで確認して欲しい。


他にもいい所はたくさんあって、この月面基地のプロダクトデザインとかが『2001年宇宙の旅』等を彷彿とさせるデザインで、さらに『2001年〜』のHALと同じような人工知能コンピュータ、ガーティ(声はケヴィン・スペーシー)が登場するのも面白い。


↓フォントもかっちょいいぞ。


↓こちらがガーティ。敵か味方か?


監督のダンカン・ジョーンズはこれが長編初監督作品。彼はデヴィッド・ボウイの息子でもあるが、70〜80年代のSF映画オタクらしく、随所でこだわりの映像を見せてくれる。例えば何度か登場する月面自動車が走るシーンはCGではなくミニチュアで撮影し、細部をCGで調整している。これがもう、素晴らしい出来。


↓月面自動車


↓お父さんと2ショット。


中盤のシュールかつバカバカしい展開の後に訪れるラストはあまりにせつなくてオイオイ泣いてしまった。あまりセリフで説明せず、画面で表現しようとしている姿勢も好ましい。映画館で観れなかったことは残念だけど、特典映像で監督自身が質疑応答スタイルで明確にされなかった謎の解説等もしているので、劇場で観た人でもDVD/BDで確認されることをオススメ。


(その他)
・『トイ・ストーリー3』のリー・アンクリッチはTwitterで以下のようなコメントを出したそうです。


このファンタスティックなSF映画をどうして、次回アカデミー賞の候補になるようプロモーションしないのか?!、配給のソニー・ピクチャーズはアホじゃないか?!

CIA☆こちら映画中央情報局です:ダンカン・ジョーンズ監督のSFカルト映画「ムーン」の冒頭7分半の動画と、最新作のSFスリラー「ソース・コード」に美女2人が出演決定…!! - 映画諜報部員のレアな映画情報・映画批評のブログです


・『2001年〜』以外にも『サイレント・ランニング』や『エイリアン』『ブレードランナー』等の影響を受けてるようです。

・サムが何かの陰謀に巻き込まれているようにも見えるし、3年間の孤独が生んだ妄想のように見えなくもないのが面白い。


(関連)
『月に囚われた男』はSFの本道を行く佳作SF映画だった - メモリの藻屑 、記憶領域のゴミ


2001年宇宙の旅 [Blu-ray]

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パーマン 1 (藤子・F・不二雄大全集)

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