絶望表現の頂点 - 『トイ・ストーリー3』

アンディがおもちゃで遊んでいたのも今は昔。アンディは大学に入学する年齢になり、カウボーイ人形のウッディたちおもちゃは託児施設に寄付されることになった。しかし、そこに待っていたのは乱暴な子どもたち。ウッディは脱出に成功するものの、アンディの元へ行くか、仲間たちを助けに戻るかの究極の選択を迫られる。


オフィシャルサイト


トイ・ストーリー2』(以下、『2』)を観た時に思ったのは「続編は作らないで欲しい」だった。


『2』では、「子どもはいつかオモチャで遊ばなくなり捨てられてしまう」ということをはっきりと言ってのけた問題作で、最終的にウッディたちは「そんな日がいつかは来る」ことを認めた上でアンディの元へ帰る。そうなると続編『トイ・ストーリー3』(以下、『3』)では、その命題から逃げるわけにはいかず、まさにパンドラの箱だった。このままでは『3』で起きるのは悲劇でしかなく、私はそんな『トイ・ストーリー』は観たくなかった。


そんなわけでアメリカでの高評価を聞いても不安要素は消えず、迎えた公開初日。ふたを開けてみると、そんな不安は吹っ飛ぶシリーズ最高傑作だった。面白い、とか素晴らしい、よりも「凄い」と思った。完成度が高過ぎる。


何が凄いかは色々あるけど、やっぱり『リトル・ミス・サンシャイン』でアカデミー賞の最優秀脚本賞を受賞したマイケル・アーントの脚本が凄い。上に書いた『2』の問題から逃げずに真っ向勝負し、結果的に「これ以外のラストはありえない」と観た人全てを納得させる展開に脱帽。



さらに凄いと思ったのは「絶望感」の表現。先日たまたま観直した『モンスターVSエイリアン』でも終盤、モンスター達が爆発する宇宙船からの脱出をあきらめて死を受け入れるシーンがあった。『モンスター〜』に限らずこういうシチュエーションってよくあるけど、実際にここで主人公たちが死んでしまう!と思ってドキドキする人は(子どもはともかく)いないと思う。観客も「どうせ助かるんでしょ」と思って観てるし、作り手も「まぁ助かるんだけどさ」って意識で作ってるからそこに緊迫感は起こりえない。


しかし『3』の絶望感の描写はハンパない。どんな窮地に陥った時でも協力して乗り切ってきたウッディやバズたちが打つ手がなくなりあきらめて死を覚悟するシーンは、頭のスミでは「助かるよね」と思っているのに大声で叫びたくなるくらいドキドキした。あのシーンの絶望感はどんな実写よりも大きかったと断言したいし、こういうありがちなシーンであっても決して手を抜かないどころか、最高のものを作るピクサーに改めて拍手したい。


『3』にもしも欠点があるとすれば、このスキのない完成度の高さだと思う。次回以降は少し肩の力を抜いたくだらない作品とか作って欲しい。あと、いつかピクサーとは別にホラー映画は作って欲しい。絶対に面白いはず。


(その他)
・同時上映の短編『Day & Night』も傑作!70'sテイスト・ミーツ・3DCG。


・ウッディとバスのそれぞれの恋愛結果?って『スター・ウォーズ』もしくは『ロード・オブ・ザ・リング』と同じだよね。主役は辛いよ。


・今回は各オモチャがそれぞれ活躍するけど、一番おいしい役だったのはケン。「どうせお前は女の子のオモチャだろ?」は爆笑した。
↓いい顔。


・ポテトヘッドの構造が凄過ぎる。あれ目玉以外が無くなったとしても生きてるのかなー。


・CGアニメでホラーといえば『モンスターハウス』があったけど、ビッグベビーの首グルリンパだけでも数百倍怖い。


・便宜上本作では「オモチャは大学生になったら卒業するもの」ってなってるけど、そもそもジョン・ラセターを始めとしたピクサー・スタッフがオモチャ好きが多いという矛盾がある。ラセターなんか「大事なオモチャは2つ買って1つ保管する」とか言ってたし(『2』のテーマ台無し)。コレはあくまでも映画なんで、自分を含めたオモチャ好きな大人はあんま気にするな。


・『チャイルド・プレイ』と『トイ・ストーリー』は共通点が多い。どちらもオモチャが生きてるし、子どもの名前はアンディで、母はシングル・マザー。3作目では青年になったアンディが登場するのも同じ。ちなみに『チャイルド・プレイ2』のコピーは「アンディ、会いたかったぜ」。こわー。

チャイルド・プレイ [DVD]

チャイルド・プレイ [DVD]


(関連)
これから『トイ・ストーリー3』を観る方へ
『トイ・ストーリー3』レビューまとめその1
『トイ・ストーリー』誕生秘話 - 『メイキング・オブ・ピクサー - 創造力をつくった人々』
観た人限定『トイ・ストーリー3』トリビア集