死にたくなければ、生まれてくるな - 『ジョニー・マッド・ドッグ』


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内戦状態のアフリカのある国に、住民たちを恐怖に陥れる少年兵のコマンド部隊があった。リーダーの“マッド・ドッグ”ことジョニー(クリストフ・ミニー)と仲間たちは、機関銃を手に強盗やレイプを重ね、無差別な殺りくを繰り返していたが……。


子どもと接していて思うのは「子どもは意外と柔軟性がない」ということ。宿題を忘れるようなことがあっても、親や先生に「これをやって」と言われたことはバカ正直に守ろうとする。雨が降っていてどう考えても体育の授業は中止なのに「先生が持ってこいって言った」の一点張りで体操服を持って行ったりする。グレーゾーンという認識がなく、状況に合わせて判断するというのはかなり苦手。良く言えば素直、悪く言えば融通が利かない。


『ジョニー・マッド・ドッグ』(以下『JMD』)は西アフリカのリベリアを舞台にした少年兵の物語。流行の「ドキュメンタリーっぽい」作りで、最近だと『ハート・ロッカー』もそうだった。いずれも「まるでその場にいるような」臨場感を味わうことになるが、『ハート・ロッカー』が100mほど離れた箇所から見ていたとすれば、『JMD』は本当に目の前で殺戮が起きているような感覚で、迫力が段違い。


反政府ゲリラに誘拐され、少年兵という殺人マシーンとして教育された彼らは上官の命令を愚直なまでに実行する。傷口にコカインを塗り込まれ、「死にたくなければ、生まれてくるな!」という志気を高める歌を歌い踊ることで恐怖心をマヒさせ、あげくにどう見てもただの一般人(大人、子ども関係なく)を「政府の犬」と呼び金品を奪い強姦しそして殺す。まさしく「狂犬」。


多くの戦争映画において、モラルを理解している大人は戦場というモラルが通じない世界を前に適応できずに悩み苦しむことになる。しかし少年兵にはそもそもモラルという概念はない。モラルは大人に教わってそれを実行し実感することで初めて理解できるからだ。ゆえに彼らに罪の意識はない。選択肢はなく、ただ大人に命令されるがまま生きてきた彼らを責めるのは酷ではあるが、その容赦ない残虐性には言葉が無くなる。


少年がリアルな銃撃戦を演じる映画といえば『シティ・オブ・ゴッド』(傑作!)があった。 無理矢理この二作を比べると、迫力では『JMD』の方が勝っているといえる。ただし、あくまでも劇映画としてドラマ的な面白さがあるかというと、『JMD』はやや投げやりな終わり方でまとまりに欠けていて、その点においては『シティ・オブ・ゴッド』の方が見応えがあった。まぁ、そんなことがどうでもよくなるくらいの衝撃さではあるけれど。


エンドクレジットでは「実際の少年兵や内戦の起きた土地の写真」が映し出されるので、この悪夢のような物語は真実なんだ、と駄目押しされて映画は終わる。最初から最後までずっと頬を叩かれ続けているようなそんな体験をしたいマゾ的な人にオススメ。


(その他)
・主人公ジョニー含め、少年兵を演じているのは実際に少年兵だった子ども達だそうです。ひー。
・エンドクレジットで「道に転がってる生首」の写真があって超怖かった。
ウェディングドレスを着たり、蝶々の羽根をつけて殺戮を繰り返す少年兵のファッションセンスが『アリス・イン・ワンダーランド』よりも狂っていてヤバ過ぎ。


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